本稿執筆時の8月29日は,高校野球決勝戦が行われた.より正確には男子で,女子の決勝戦は23日に開催され,TV放送があるものと思いきや,なかったことは非常に残念である.NHKや朝日放送などに要望があったようで[1],至極当然に感ずる.視聴者の要望をタイムリーに汲み取れないメディア側の責任だ.女子硬式野球には多大な尽力があったようで,純粋に野球がしたい女子たちとそれを支援する人たちの賜物だ[2].笑顔がシンボルで元気いっぱいのプレーは男子と異なる新鮮でさわやかさが感じられた[3].甲子園での決勝の夢は,神戸弘陵の右腕,島野愛友利(あゆり)(3年)さんが,中学時代に男子に勝った女子エースとして一躍有名になり,彼女の「女子にも甲子園のような大会がほしい」という思いの新聞記事が掲載され,それを拾い上げた日本高校野球連盟の当時の事務局長,竹中雅彦さんの功績だろう[4].社会の常識を変えることは大変だったと察せられるが,彼女たちの思いを,望みを叶えてあげたい思いが勝った証拠だ.男子女子の区別が差別に繋がり,これが社会通念として定着化し,女子ボクシングに対する張本氏のコメント[5](第21回のみのつぶ短信参照)が一つの象徴だ.当の張本氏は,女子野球に関しては,好意的なコメントを残しているようだ[6].競技間の差別も感じられる.
野球で差別の歴史と言えば,黒人初の大リーガーのジャッキー・ロビンソンの経験してきたことが象徴的だ[7].1945年にニグロリーグから,マイナーリーグのブルックリン・ドジャースの会長ブランチ・リッキーに誘われ入団するが,彼に「君はこれまで誰もやっていなかった困難な戦いを始めなければならない。その戦いに勝つには、君は偉大なプレーヤーであるばかりか、立派な紳士でなければならない。仕返しをしない勇気を持つんだ」と諭され,これを生涯ほぼ守ったとされる.メジャー・デビューは1947年で,ドジャースだった.大リーグのオーナー会議では,ドジャースを除く全15球団がロビンソンがメジャーでプレーすることに反対し,対戦拒否や選手によるストライキなども扇動されそうになった.それに対し,ハッピー・チャンドラーコミッショナーはドジャースを支持し,フォード・フリックナショナルリーグ会長は対戦を拒否したら出場停止処分を課すと発表し,問題の鎮静化を図ったようだ.社会通念に反するように見えても,差別を無くし,健全な大リーグに向かわせようとしたコミッショナーやリーグ会長は,非常に正しい判断を下した.
さて,日本では暴力事件を起こして,無期限出場停止となった日本ハムの中田選手を巨人が電撃トレードして入団させた件である.驚きと同時に憤りを感じた.4つのポイントがある.
- 中田選手本人の反省や公式謝罪が日ハム主催で北海道で行われておらず,本人の反省がどの程度のものか疑われる.
- 日本ハム球団が出場停止処分を科しつつも,1.なしに巨人への電撃トレードで,チーム統括本部副本部長の岩本賢一氏が,「先方球団との話し合いの中で東京でジャイアンツの一員として入団会見をする時に一緒に謝罪をというふうな話になりました」と述べ[8],処分を科した球団側の責任ではなく,トレード先の巨人に責任転嫁している.先方の意向と言いながら,有無を言わせない圧力があったのだろうか?それにしても球団サイドとして科した処分の有効性に関して,まったくの責任放棄にしか映らない.
- さて,巨人サイドの動きは,日ハム栗原監督と原監督との電話会談でトレードが成立したようであるが,到底,納得の行くものではない.トラキチの浅田としては,宿敵巨人の監督ということで,いささかバイアスがかかるものの,原監督に関しては,高校野球時代からのプリンスであり,非常にフェアで爽やかな監督のイメージをもっていたが,誠に残念である.また,長嶋茂雄終身名誉監督が中田の活躍に対して,「真の強打者ですね。」[9]の発言は,ややもすると「暴力肯定」に繋がりかねない.巨人のこのわがままは,「江川事件」[10]を彷彿とさせる.
- 最初にカミさんに指摘され,浅田も一番強く思ったのは,コミッショナーの責任である.日本の野球の頂点であるプロ野球は,男女の高校球児を始めとして,少年少女たちの夢だと信じたいが,これでは,「悪いことをしてもなんとでもなりますよ」というメッセージを発信しているようなものだ.先に示した米国大リーグのコミッショナーの英断と雲泥の差である.ガバナンスが皆無に等しい.
冒頭の女子硬式野球の甲子園決勝戦の実現は大きな夢の結実であり,女子硬式野球の次世代への出発点でもある.1997年に開催されたロボカップの第一回国際大会では,参加チームはロボットをなんとか駆動させることに精一杯だった.勝負事というよりも,ゲームを成立さることが主眼であり,開催できたことが喜びであった.女子硬式野球とは若干ことなるが,夢の実現の第一歩という意味では,ある意味共通するのものがあると信じたい.そのような一面が中型の決勝戦であった.大阪大学のTrackiesと南カリフォルニア大学のDreamteamが戦ったが互いにゴールなしの引き分けで,延長戦に入る予定であったが,Dreamteam側のロボットのバッテリーの予備がなく,延長戦ができなくなった.現状ルールなら,不戦勝でTrackiesの優勝だが,互いに励まし合う意味で,ともに優勝とした.開催の喜びとともに,第一回大会のほのぼのとしたのどかな一場面であった.写真はTrackiesとDreamteamの記念写真である.余談だが,Dreamteamのロボットプラットフォームは,日本のラジコンのおもちゃで,実はTrackiesと同じものであった.さらに,米国での購入価格が若干だが,日本より廉価であったとのことである.
[1] https://news.yahoo.co.jp/articles/ca7488db12b4360e62a2517d0c5bfc3493317138
[2] https://vk.sportsbull.jp/koshien/articles/ASP8S4GQNP89PTIL00F.html
[3] https://www.youtube.com/watch?v=2CPZ3UctVLs
[4] https://vk.sportsbull.jp/koshien/articles/ASP8R4K9SP8RUTQP00P.html
[5] https://news.yahoo.co.jp/articles/405484238d26892b0b4467fae9886709230bc79b
[6] https://news.yahoo.co.jp/articles/5b2f3ed0a63887c5761110c4949f0a82dfb1924a
[7] https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャッキー・ロビンソン
[8] https://news.yahoo.co.jp/articles/05807ae9def3f926c3bce0ba63413b45ad22ebcb
[9] https://hochi.news/articles/20210822-OHT1T51178.html
[10] https://ja.wikipedia.org/wiki/江川事件
浅田稔
元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授