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第130回 宇宙開発を支えるロボット技術の最前線(実施報告)


第130回ロボット工学セミナー実施報告書

宇宙開発を支えるロボット技術の最前線

 

開催日時 2020年11月27日(金) 10:00-17:30
会場 オンライン開催
参加者数 66名
オーガナイザー 永岡 健司(九州工業大学)
サブオーガナイザー 工藤 拓(富士通研究所)

 

セミナー概要

 人類初の人工衛星打ち上げから60年余り経過した現在,宇宙開発は従来の官主導に加えて,民間主導あるいは産学官の連携・協働を軸とした新たな局面を迎えています.宇宙開発の舞台は極限環境であり,その用途は国際宇宙ステーションを含む地球周回軌道上の各種サービスから,月惑星の科学探査や利用に至るまで多岐に渡ります.とりわけ,軌道上を漂う宇宙ゴミの除去や無人宇宙船とのドッキング,月惑星表面への着陸や天体表面での移動探査などに代表される,先進的かつ多様化する宇宙ミッションを支えるキーテクノロジーとして,ロボット技術(あるいはロボティクス)の宇宙応用が重要になります.このような背景の元,本セミナーでは,国内外の官民異なる立場で宇宙開発を牽引する方々を講師にお招きし,軌道上サービスならびに惑星探査に応用されている最新の宇宙ロボット技術について,実例を交えてご講演していただきました.

 なお,本セミナーはCOVID-19の流行に伴い,聴講者・講師の安全を重視し,聴講者・講師も含めて,遠隔配信の形式といたしました.また,参加者へのサービス向上を目的とした,参加者限定・期間限定での見逃し配信を試験的に実施いたしました.

 

第1話 火星ローバー・パーサヴィアランスが切り拓く火星探査新時代

NASA/JPL 小野 雅裕 様

 本講演では,2020年7月にNASAが打ち上げた最新の火星ローバー・パーサヴィアランスのミッションの概要と技術革新についてご紹介いただきました.米国が推進する火星探査計画における,パーサヴィアランスが果たす役割と,それによって切り拓かれる天体科学についてご講演いただきました.特に,技術革新として,先代のキュリオシティから強化さ
れた自動走行機能(ソフトウェア)における大幅なアップデートについて,地上での検証試験の結果も交えて解説いただきました.また講演後半では,さらに未来を見越した惑星ローバーやその他の宇宙探査機として,木星の衛星エウロパや,土星の衛星タイタンの探査ミッションに向けた先進技術をご紹介いただき,今後益々拡大していく惑星探査ミッションを支える多様なロボット技術について概説いただきました.

 

第2話 ベンチャー企業として進める小型月面探査車の開発

ispace 田中 克明 様

 本講演では,株式会社ispaceが進める民間企業としての月面開発についてご紹介いただきました.月面社会の構築に向けて,民間企業ならではのビジネスとして視点から見た月面開発について解説いただくとともに,同社が開発を進めている月面探査車や月面着陸機についてご紹介いただきました.月面でのロボットの利用に必要となる,環境耐性を考慮し
た設計要求に対して,官主導ではなく民間企業ならではの開発戦略を中心に,お話いただきました.とりわけ,従来の大型な探査機システムではなく,コストを重要視した小型・軽量な探査機システムによって月面開発を推し進めるという考え方は,民間企業が切り拓く新たな宇宙開発スタイルであることを象徴したご講演内容であり,民間発の月面開発の最前線について,実例を交えてご紹介いただきました.

 

第3話 宇宙はロボティクス最高のアプリケーション先だ ~JAXA ロボティクスの最新の試み

JAXA 加藤 祐基 様
 本講演では,JAXAが進めるロボット技術を利活用した先進的宇宙ミッションとして,宇宙飛行士の協働ロボットや,デブリ除去ロボット,地上の最新技術を活用した探査ロボットについてご紹介いただきました.宇宙ロボティクスにおける本質的な技術課題を,環境によるダイナミクスの違い,環境の不確定性,劣悪な通信環境により要する自律性,に分けて,実際のJAXA宇宙ミッションに対応したそれぞれの課題とその解決に向けた取り組みについて,体系的にご講演いただきました.特に,地上の既存ロボット技術(機械学習やROSプラットフォームなど)を宇宙応用する動きについても概説いただくとともに,今後より一層開かれていく宇宙ロボティクスのアプリケーションという視点からご講演いただきました.

 

第4話 宇宙ゴミ(スペースデブリ)という世界一厄介な問題への民間における取組み

アストロスケール 伊藤 美樹 様
 本講演では,株式会社アストロスケールが進める,軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題の解決に向けた取り組みと技術開発についてご紹介いただきました.特に,民間企業として世界で初めて宇宙ゴミ回収ビジネスを確立することを目指す同社では,宇宙ゴミ除去技術実証衛星ELSA-dの打ち上げ,および軌道上実証が直前に迫っているタイミングということも相まって,最新の実証機で開発,搭載されたキーテクノロジーについても概説いただきました.民間企業が推し進める新たな宇宙ビジネス・モデルを解説いただくとともに,本実証機に搭載されている(あるいは今後必要になる)宇宙技術における,地上のロボット技術との共通要素やその技術応用という視点からもご講演いただきました.

 

まとめ

 本セミナーでは,現在そしてこれからの多様化する宇宙開発を支えるキーテクノロジーの一つとして「ロボット技術の宇宙応用」にフォーカスを当て,国内外の官民異なる立場から宇宙開発を最前線で牽引する,比較的若手の研究者・技術者の方々にご講演いただきました.今後益々多様化していく宇宙開発を支えるロボット技術について,それぞれの違い(官民の立場やミッションによる違い)や,逆に普遍的な共通要素についても知ることができ,ロボット技術の応用がこれからの宇宙開発の発展を加速させていくことを,改めて認識することができました.同時に,それぞれの宇宙ミッションで研究開発されているコア技術の情報共有に留まらず,民間企業ならではの視点から宇宙開発を将来ビジネスとして捉える動きについても多角的にご講演いただくことで,宇宙ロボット技術の応用が切り拓く宇宙開発の幅広さを実感いただける,大変有意義なセミナーになったかと思っております.
 また本セミナーは,COVID-19の影響を鑑みて,zoomによる遠隔配信形式とし,質疑応答にはzoomでの口頭質問とsli.doを併用した形式で実施いたしました.特に,本セミナーでは,質疑応答に十分な時間を確保いただけたご講演も多かったため,これまで以上にインタラクティブで活発な議論ができたものと思っております.並びに,海外在住の講師の方にご講演いただけた点は,移動の制約を伴わない遠隔セミナーならではのメリットともいえ,今後も活用できるセミナースタイルの一つになっていくものと実感できました.
 最後に,本セミナーが今後の宇宙ロボット分野の発展に少しでも貢献できれば甚だ幸いです.

 

謝辞

 ご多用中,本セミナーの主旨にご賛同いただきご講演を快諾いただきました講師の皆様方,ならびに熱心に聴講し活発な議論をいただいた参加者の皆様方に御礼申し上げます.また,本セミナーの企画・運営におきましては,日本ロボット学会事業計画委員会の皆様方,特に前委員長の辻俊明先生(埼玉大学),現委員長の新妻実保子先生(中央大学),サブオーガナイザーの工藤拓様(富士通研究所),ならびに日本ロボット学会事務局の細田祐司事務局長様,水谷俊徳様,村上ちほ様には,大変お世話になりました.心より感謝申し上げます.

2021 年1月19日 永岡 健司(九州工業大学)