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学生編集委員会企画:第38回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:アクチュエータ)


執筆日 2020年11月3日(火)
東京大学大学院 工学系研究科 修士課程1年 茶田智来

 

 2020年10月9日(金)から11日(日)にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第38回学術講演会のセッションレポートをお届けします.

 今回レポートするのは,1日目に開催されたセッション「アクチュエータ」です.
 まずは,セッションの内容を簡単に紹介します.
 1件目の発表は,東京大学による「フレームレスモータを用いた小型高出力EHAモジュールの設計法」です. EHAというアクチュエータの様々な条件下における損失を試算し,その結果に基づいて小型高出力EHAモジュールの設計法を提案しています.
 2件目は,大阪大学の「機能別操作シナジーを実現する蛇腹ソフトアクチュエータネットワーク」です. 水圧連動式のシナジーハンドを提案し,1指の機構を製作して評価しています.
 3件目は,久留米高専,北九州市立大学らによる「小型MRブレーキによる倒立振子振り上げ制御」です.磁気粘性流体ブレーキ(MRブレーキ)を用いて並進運動からエネルギーを取り出し,それを用いて倒立振子の振り上げ制御を行っています.

 

 これら3つの発表のうち,特に印象に残った1件目と2件目の発表について詳しく紹介します.

 

 まずは,「フレームレスモータを用いた小型高出力EHAモジュールの設計法」です.EHAとはElectro Hydrostatic Actuator の略で,日本語では電気静油圧アクチュエータと言います.電気を油圧に変換し,さらにその油圧を機械的な運動に変換することで様々な動作を実現します.特に航空機産業でよく用いられています.
 EHAには,制御バルブが不要である,耐衝撃性が高い,機械的バックドライバビリティが高い,といった長所がある一方で,重量が大きいため重量出力比が悪いという短所もあります.この研究では,これを改善するための小型高出力EHAモジュールの設計法を提案しています.

 

 概要を簡単に説明すると,この研究で設計されたEHAモジュールはフレームレスモータユニットとベーンモータから構成されています.フレームレスモータユニットでは,扁平で径の大きく,かつ低速高トルクのフレームレスモータによって油圧ポンプが駆動されます.ベーンモータとは,簡単に言うと差圧によって駆動するモータです.

 

 ポンプの駆動に低速高トルクのモータを採用するのは,低速高トルクのモータを採用すれば減速機が不要になり,EHAの小型化や摩擦損失の削減ができるからです.また,EHAの損失の計算をいくつかの運転条件に対して行い,重量と効率のトレードオフの中で採用するモータを選定しています.
 低速高トルクのモータを採用したことに加えて,部品を同軸配置にしたり,軸受の材質を鋼からセラミックスに変更したりすることで,ハーモニックドライブを採用したアクチュエータと同等の重量出力比を達成したそうです.既存のアクチュエータの構造を定量的な根拠に基づいて抜本的に改良し,性能の大幅な改善を達成したこの研究発表は,とても聴きごたえがありました.

 


小型高出力EHAモジュールの断面図.(予稿原稿[1]より転載)

 

 次に,「機能別操作シナジーを実現する蛇腹ソフトアクチュエータネットワーク」です.この研究のターゲットは多指ハンドです.人の手のように複数の指を有しており,高度な操作や人間環境への適応ができるものとして大きな可能性をもっています.しかし,指が多いということは,単純に考えれば制御の次元が大きく,複雑になるということです.そこで,この研究はシナジーという制御次元削減の手法を用いた蛇腹ソフトアクチュエータを提案・製作しています.
 シナジーとは,アクチュエータあるいは関節の連動によって運動の自由度(次元)を減らす手法です.たとえば,四輪自動車を例にとってみます.それぞれのタイヤが自由に動かせる(操舵できる)なら自由度は4ですが,4つのタイヤを連動させれば自由度を1とすることができます(いわゆる普通の自動車はこうなっていますね).ロボットハンドも同じように自由度を減らすことができます.しかし,せっかくの自由度が大きな機構にそんなことをしてしまうと,そのロボットハンドができる動作はごく限られたものになってしまいます.その問題を解決するために,タスクに応じて連動の組み合わせを切り替えるという方法をとっています.
 この研究で製作された1本指のアクチュエータには2つの関節があります.それらの関節は,蛇腹が水圧によって伸縮することで駆動します.蛇腹同士をつなぐ水流管には電磁弁が取り付けられており,それによって連動の組み合わせを変えることができるそうです.まるで人間の指のように動くその様がとても印象に残りました.

 


1本指のアクチュエータ.(予稿原稿[2]より転載)

 

 私は昨年の日本ロボット学会学術講演会にも発表者かつ学生セッションレポータとして参加しました.今年はオンラインでの開催となり,どんな感じになるのだろう?とやや不安に感じていましたが,ちょっとした通信トラブルを除けば対面開催と比較しても遜色なかったと個人的には思いました.学会関係者の皆様のおかげだと思います.ありがとうございました.

 

 以上,「アクチュエータ」のセッションレポートでした.私はこのほかにオーガナイズドセッション「ロボットの法と倫理:マルチスピーシーズ社会における法と設計」のセッションレポートも担当しています.そちらも読んでいただけると幸いです.

 

【講演プログラム】
1A3_GS23:アクチュエータ
[1] 1A3-01 フレームレスモータを用いた小型高出力EHAモジュールの設計法
〇中西貴大(東京大学),駒形光夫(東京大学),山本江(東京大学),中村仁彦(東京大学)
[2] 1A3-02 機能別操作シナジーを実現する蛇腹ソフトアクチュエータネットワーク
〇東和樹(大阪大学),小川佳祐(大阪大学),万偉偉(大阪大学),原田研介(大阪大学)
[3] 1A3-03 小型MRブレーキによる倒立振子の振り上げ制御
〇南靖博(久留米高専),西津裕一郎(久留米高専),清田高徳(北九州市立大学),杉本旭(NPO安全研)