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RSJ2019学生講演レポート[2E1(OS26):遊びとロボット(1/2)]


2019年9月24日(火)

東京大学工学部精密工学科4年 茶田智来

 

 2019年9月3日(火)から7日(土)にかけて早稲田大学で開催された日本ロボット学会第37回学術講演会のセッションレポートをお届けします.

 

 今回レポートするのは,3日目に開催されたオーガナイズドセッション「遊びとロボット」です.このセッションは前半と後半の2つにわかれています.ここでは前半についてレポートします.

 

 まず,セッションの概要を説明します.

 このセッションはプロのメディアアーティストくろやなぎてっぺいさんによる基調講演「アイデア×ロボット」で始まりました.音楽グループMr.Childrenのステージビジュアルや,NHK連続テレビ小説『半分、青い』のオープニング映像など,さまざまなメディアアートを手掛けるくろやなぎさんの視点から,ロボットと自由なアイデアを絡めることで生まれる新しい視点や価値についてお話しいただきました.

 

 これに続いて4件の発表が行われました.その内容を簡単に紹介します.

 1件目は筑波大学の望山先生による「アート作品の観察を通した有機的身体をもつロボットに関する考察」です.本体が野菜でできており,自ら糠床をかき混ぜて発酵する「糠漬けロボット」を製作し,その朽ちる過程を観察・考察した研究です.糠床の中で野菜がくねくねと動く様子は,強く印象に残りました.

 2件目も同じく望山先生による「Make: Animacy2」.これは望山先生の,ロボットに生き物っぽさを与えようという提案「Make: Animacy」の第2弾です.ジャンプロボットを子供たちが作るイベントを実施しました.

 3件目は芝浦工業大学の佐々木先生による「ペットボトルを用いたプラトンボを題材としたメカトロニクス工作教材の提案」です.小中学生を対象とするメカトロプラトンボ教材を提案し,それを作る教室を開催したという報告です.

 4件目は首都大学東京の武居先生による「ワイヤーフレームロボットアーム」です.ワイヤーで構成された簡単な構造でありながら変幻自在にその形を変える幾何学おもちゃ「インドの毬」を基にワイヤーフレームロボットアームの伸縮変形モジュールを開発した研究です.

 

 ここでは,私が特に興味を持った,くろやなぎてっぺいさんの基調講演と,3件目の発表「ペットボトルを用いたプラトンボを題材としたメカトロニクス工作教材の提案」について詳しく紹介します.

 

 まずは,くろやなぎてっぺいさんの基調講演です.メディアアーティストの仕事内容や,メディアアーティストの視点から見たロボットの可能性についてご講演いただきました.

 

 ここでは,くろやなぎさんがお話しされたロボットに関するアイデアを4つご紹介します.

 1つ目は,硬さが変化する財布です.お金を使いすぎると財布が硬くなり開きにくくなり,豪遊すると遠隔操作で財布がロックされる,などなど,硬さの変化によってお金の使いすぎを防ぐ財布です.

 2つ目は,場を和ませるネクタイです.着用している人の心拍数が怒りで上がると,ネクタイがコブラのようにくねくねと陽気に踊りだして空気を和やかにするというアイデアです.

 3つ目は,やわらかいスマートフォン「タコ・スマフォ」です.吸盤のように吸い付き,落ちても割れません.激しい運動をしても体にくっついている様は,さながらペットのようです.

 4つ目は,変化する枯山水です.岩に見立てたソフトロボットが天候や太陽の位置に応じて形を変え,その時々の状況に応じて最も美しい状態を作りだします.

 

 これらのアイデアはどれも,私の目にはとても斬新に映りました.特に,2つ目のネクタイはまるで生命が宿っているかのように動くのだろうと想像を膨らませました.

 

 次に,「ペットボトルを用いたプラトンボを題材としたメカトロニクス工作教材の提案」です.メカトロニクス工作の要素を持つのはもちろんのこと,工夫の余地(プロペラの形を各々で工夫できる)があり,競技要素(飛べる高さを競う)も含み,いわゆる「ブラックボックス」(マイコンのように,原理はわからないけど使えてしまうようなもの)のない教材として提案されました.このような教材が,子供たちが工学に興味をもつきっかけとして広まるといいなと思います.

 

 このセッションは,ロボット学会学術講演会の中では少し異色なものという風に感じました.

 私が一番印象に残ったのは,「研究者は論文を書くことを念頭に置きながら研究をするので,実用性や有用性のあるものにとらわれがちになる.実用性や有用性はもちろん大事なことだけれども,それにとらわれない視点,例えば一見無駄と思えるようなことに目を向けてみるようなことも大切である」ということです.これは,本セッションの座長であり,発表もされた筑波大学の望山先生がおっしゃった言葉です.

 私はまだ学部4年生で,研究活動の経験は浅いです.今後,研究を進めるにあたり,望山先生のおっしゃったことを忘れずにいたいなと思いました.

 

 以上,オーガナイズドセッション「遊びとロボット」前半のセッションポートでした.これに興味を持った方は,ぜひ後半のセッションレポートもご覧ください.また,私はこのほかに「産業用ロボット・自動化システム」(前半・後半),「フレキシブルロボット」,「屋外作業ロボット」のレポートもしています.こちらもお読みいただけると幸いです.

 

 

2E1_OS26:遊びとロボット(1/2)

2E1-01    【基調講演】アイデア×ロボット

○くろやなぎ てっぺい(メディアアーティスト)

2E1-02    アート作品の観察を通した有機的身体をもつロボットに関する考察

○望山 洋(筑波大),翠 健仁(筑波大),安藤 潤人(筑波大),くろやなぎ てっぺい(メディアアーティスト)

2E1-03    Make: Animacy2

○望山 洋(筑波大),翠 健仁(筑波大),安藤 潤人(筑波大)

2E1-04    ペットボトルを用いたプラトンボを題材としたメカトロニクス工作教材の提案

○佐々木 毅(芝浦工大),藤田 優(芝浦工大)

2E1-05    ワイヤーフレームロボットアーム

○武居 直行(首都大),武井 裕貴(首都大)