執筆日:2021年2月15日
筑波大学 牧原昂志
2020年10月9日から11日にかけてオンライン開催された第38回日本ロボット学会学術講演会セッション参加レポートをお届けします.
今回レポートするのはセッション2日目,10月10日の午後に開かれた「GS02:ヒューマノイド」です.
このセッションでは8件の発表が行われました.まずはその内容を簡単にご紹介します.
1件目は大阪大学・産総研による,「3D-SLAMに基づくヒューマノイドのための未知環境下における自律探索行動計画」です.ヒューマノイドによって目標の物体を探索するための環境認識や,行動計画を自律的に実行する手法を提案しています.
2件目は大阪電気通信大学のグループによる,「複数の深度カメラをポイントクラウドサーバとして共有するRoboCup SSL Humanoidの次世代システム」です.小型ロボットを使ってサッカーを行うコンテストにおける,複数台のカメラを使って作られた環境地図を共有するシステムを提案しています.
3件目は早稲田大学のグループによる,「ネックホルダーを使用した人間型サキソフォン演奏ロボットの開発」です. 人間の動きを摸倣してサキソフォンを演奏するロボットにおいて,指部分の機構を改良することで高速でキーを開閉することができるようになっています.
4件目は千葉工業大学による,「深層学習による単眼画像からのヒューマノイドロボットの3次元姿勢推定」です. 2次元画像として得られたヒューマノイドの姿勢データを3次元データに変換する手法を定案しています.
5件目は東京海洋大学・ヤマグチロボット研究所・大阪大学・大阪芸術大学による,「文楽人形から抽出するロボット誇張表現機構の開発」です.文楽人形をロボットの機構に落とし込み,首と胴体部分に伸縮する機構を取り付けることで,表現をより人間らしく見えるように設計しています.
6件目は東京大学のグループによる,「等身大ヒューマノイドにおける全身動作最適化に基づく脚踏み出しを含むテニスボレー動作生成」です.ヒューマノイドを使った全身動作のうちの一つの踏み出しをしてボレーを打つ操作の最適な動作軌道を設計しています.
7件目は東京大学のグループによる,「衝撃緩和と力応答のためのヒューマノイドJAXON3-Pの駆動系設計法と動的接触動作の実現」です.ヒューマノイドの跳躍による衝撃を押さえるためのモータ駆動系の設計を,目標の性能を達成できるかを定量的に評価した上で行う手法を提案しています.
8件目は東京大学・トヨタ自動車による,「面状骨格間構造を利用し広い可動域においてモーメントアームを確保し高出力での環境接触動作が可能な筋骨格脚の開発」です.靱帯における面上組織を模した構造を筋骨格脚に用いることで,安定的な動作を実現し,意図しない動作不良を防ぎ,耐久性も高い機構を開発しています.
これらの中から,私が特に興味を持った1件目の「3D-SLAMに基づくヒューマノイドのための未知環境下における自律探索行動計画」と4件目の「深層学習による単眼画像からのヒューマノイドロボットの3次元姿勢推定」について,詳しくレポートします.
「3D-SLAMに基づくヒューマノイドのための未知環境下における自律探索行動計画」(大阪大学)
ヒューマノイドが自律的な動作を実行するためには,環境の認識と行動計画を立てることが必要ですが,これらのモジュールは個々に解決されていることが多いです.環境認識に関してはSLAMの技術を用いる必要があり,行動計画では二足歩行の制御や障害物の回避,目標行動をするための視点の移動や探索の行動の仕方など,さまざまな技術が必要になります.この研究では,これらを複合したロボットシステムによって,入力を目標物の3Dモデルのみとし,一括して動作を自律的に動作できるように実現しています.入力の情報が少ないにもかかわらず,認識(図1)や行動を適切に実行できている点が非常に魅力的に感じました.個々の技術に関しては解決されていても統合する上で問題は発生するので,適切に行動計画のシステムを作り上げることは難しい点もあると思います.これにもかからわず,実環境での実験も成功(図2)することができていることは価値が高いと感じました.
図1.環境認識と物体位置の推定(予稿原稿[1]より転載)
図2.実験の様子:探索行動を行い物体を発見し把持を行う(予稿原稿[1]より転載)
「深層学習による単眼画像からのヒューマノイドロボットの3次元姿勢推定」(千葉工大)
ロボカップにおけるヒューマノイド競技(サッカー)では,相手の動きを予測して行動することが試合を有利に進めることができるため,ロボットに搭載されたカメラのみで相手のロボットの姿勢を推定する必要があります.提案手法では,画像から2次元の姿勢を推定し,これを3次元に拡張するように推定することで実現しています(図3).3次元への推定には深層学習モデルを用いており,2次元姿勢から3次元姿勢へと推定するための,正解となる学習データが必要となります.提案手法では学習データを物理シミュレーションを用いて生成しており,これを用いた学習を行なった後,推定を行なっています(図4).ヒューマノイドなど,実環境で動作させることの労力が必要な対象に対して,シミュレーションによって多くのデータを獲得できるようにすることは,多くの場面に対して有用性があるように感じました.
図3.提案手法の概要(予稿原稿[4]より転載)
図4.歩行時の姿勢推定の例(予稿原稿[4]より転載)
以上で「ヒューマノイド」のセッションレポートを終わります.
【講演プログラム】
2G2_GS02:ヒューマノイド
[1] 2G2-01 3D-SLAMに基づくヒューマノイドのための未知環境下における自律探索行動計画
○都留 将人(大阪大学/産総研), Escande Adrien(産総研), Tanguy Arnaud(産総研), Chappellet Kevin(産総研), 原田 研介(大阪大学/産総研)
[2] 2G2-02 複数の深度カメラをポイントクラウドサーバとして共有するRoboCup SSL Humanoidの次世代システム
○三谷 一輝(大阪電気通信大学), 平井 雅之(大阪電気通信大学), 升谷 保博(大阪電気通信大学)
[3] 2G2-03 ネックホルダーを使用した人間型サキソフォン演奏ロボットの開発
○水上 和彦(早稲田大学院), 内山 純(早稲田大学院), 山田 晃久(早稲田大学院), 馬 翊翔(早稲田大学院), 韓 衍(早稲田大学院), 林 家宇(早稲田大学院), コセンティノ サラ(早大理工学術院), 高西 淳夫(早大理工学術院・早大ヒューマノイド研究所)
[4] 2G2-04 深層学習による単眼画像からのヒューマノイドロボットの3次元姿勢推定
○島田 悟志(千葉工大), 林原 靖男(千葉工大), 入江 清(千葉工大)
[5] 2G2-05 文楽人形から抽出するロボット誇張表現機構の開発
○近藤 逸人(東京海洋大), 山口 仁一(ヤマグチロボット研究所), 大須賀 公一(阪大), 中川 志信(大阪芸大)
[6] 2G2-06 等身大ヒューマノイドにおける全身動作最適化に基づく脚踏み出しを含むテニスボレー動作生成
○服部 未来(東大), 小島 邦生(東大), 野田 晋太朗(東大), 菅井 文仁(東大), 垣内 洋平(東大), 岡田 慧(東大), 稲葉 雅幸(東大)
[7] 2G2-07 衝撃緩和と力応答のためのヒューマノイドJAXON3-Pの駆動系設計法と動的接触動作の実現
○小島 邦生(東大), 小椎尾 侑多(東大), 菅井 文仁(東大), 垣内 洋平(東大), 岡田 慧(東大), 稲葉 雅幸(東大)
[8] 2G2-08 面状骨格間構造を利用し広い可動域においてモーメントアームを確保し高出力での環境接触動作が可能な筋骨格脚の開発
鬼塚 盛宇(東京大学), ○西浦 学(東京大学), 河原塚 健人(東京大学), 都築 敬(東京大学), 利光 泰徳(東京大学), 大村 柚介(東京大学). 浅野 悠紀(東京大学), 岡田 慧(東京大学), 川崎 宏治(トヨタ自動車), 稲葉 雅幸(東京大学)