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活動報告2021:北海道ロボット技術研究専門委員会


SICE北海道支部・RSJ-HRT 特別講演会
日時 2021年3月9日(月)13:00-14:00
講師:稲見 昌彦 教授(東京大学)
題目:自在化する身体 身体のDXに向けて


身体情報学,人間拡張工学,VR,ロボット工学など多岐にわたる分野で活躍されている東京大学先端科学技術研究センター教授・稲見昌彦先生に「自在化する身体 身体のDXに向けて」と題した特別講演をいただいた.主催はSICE北海道支部であり,本委員会が協賛した.40名の参加があり,委員会メンバーほかオンラインの開催であったため道外RSJ会員も多数参加いただいた.

 


■ 稲見先生は少年期より人間の能力をテクノロジーで拡張することに興味を持たれ,現在は情報技術による身体性の拡張に関する研究を,JST ERATO稲見自在化身体プロジェクトを主宰されるなど,同分野をリードされている.まず,身体のDX(デジタルトランスフォーメーション)について解説いただいた.

DXには,アナログ,デジタイゼーション,デジタライゼーション,そしてDXの4つの段階がある.オンライン時代という環境の変化に対して,目的・本質を見失わず,仕組みや手法の最設計が望まれている.身体がいかに強いかという「身体の時代」から,現在は工業化・情報化による「脱身体の時代」であるが,脱身体では相手の存在を感じづらい,親近感が無いなどの問題がある.身体の再設計による「ポスト身体の時代」では,心と体を分離して設計できる,心と体の新たなネットワークを生成できる.これを導くのが身体のDXである.例えば,生活と労働の両立,身体弱者の社会参加,空間を超越した遠隔就労などへの活用が期待されている.


■ 次に,身体のDXを実現する人間拡張工学とJST ERATO稲見自在化身体プロジェクトについて解説いただいた.

自動化による人間代替(ロボット)技術は,危険作業,高負荷作業など,人がやりたくないこと,やらなくても良いことに適用すべきである.一方,身体のDX,自在化による人間拡張(サイボーグ)技術は,創造的作業,娯楽・余暇など,人がやりたいことに適用すべきである.
JST ERATO稲見自在化身体プロジェクト(2017.10-2023.3)では,超感覚,超身体,幽体離脱・変身,分身,合体をテーマに自在化身体に関する研究を,5つのグループで実施している.マジックハンドで投球動作の正確性を向上,ヒトが気づかないような機械的介入(人の主体性の維持),足の身体性を腕に拡張したMetaLimbs(第三,第四の腕),第三者からの動きの介入(Fusion),動作の合体(Shared body),動作の分身技術など,多くの身体機能拡張技術の研究成果を挙げられている.
身体の自在化によって,できないことができるようになることによるモチベーション向上まで期待できる.


■ 新しいスポーツの創造として,超人スポーツ協会の活動を紹介いただいた.

超人スポーツとは『人間の身体能力を補綴・拡張する人間拡張工学に基づき,人の身体能力を超える力を身につけ「人を超える」,あるいは年齢や障碍などの身体差により生じる「人と人のバリアを超える」,このような超人同士がテクノロジーを自在に乗りこなし,競い合う「人機一体」の新たなスポーツを創造することを目指す』である.
超人スポーツには,『技術とともに進化する「人機一体」のスポーツ,すべての人が競技者として楽しめるスポーツ,すべての人が観戦者として楽しめるスポーツ』という3原則があり,現在28競技を認定している.
身体を拡張するテクノロジーを身に纏う人機一体の「超人化技術」により人の身体能力を越えようとする試みとして超人スポーツグランドチャレンジの企画されており,今秋に開催予定である.


■ 最後に,稲見先生より聴講者に対して,問いかけがあった.

社会革命によって身体の役割が変わってきた.人類が環境に影響を及ぼす能力をもつようになった「人新世」において,人の能力とは何かを考えていかなければならない.


■ 聴講者からは,「高齢者の身体性を拡張する技術を更に紹介してほしい」,「身体を拡張したときの脳機能の拡張を調べる方法はあるのか」,「人間に新しい能力を身に着けさせる可能性はあるのか」など,時間いっぱいまで多くの質問がなされた.


■ コロナ禍によって学会活動もオンライン化を余儀なくされている.しかし,その環境の変化を支える技術によって,新たな社会の仕組みも創造されつつある.北海道では人の活動地域が点在しており,その間の人や物の移動が活動の制限となっていた.今回,稲見先生にご講演いただいた身体のDXは,このような北海道の産業を変える新たな技術基盤となるものと考える.


以上(青字)は稲見先生のご講演を要約したものです.

文責 田中孝之(北大,RSJ-HRT幹事)