2022年3月12日(土)国際ロボット展2022の会場にて、第42回全日本マイクロマウス大会をコロナ禍を経て、約2年ぶりにリアル大会として開催した。この報告書は、大会の報告書であるとともに、ロボット競技としてのマイクロマウス、ロボトレースについて解説したい。
執筆:公益財団法人ニューテクノロジー振興財団 事務局長 中川友紀子
★マイクロマウス大会とは
マイクロマウス大会は、マイクロマウス競技(自立型ロボットによる迷路解析)とロボトレース競技(自立型ロボットによるライントレース)を含む競技会であり、年齢層、国籍問わず参加者の層が幅広い全日本マイクロマウス大会(年1回開催)と学生の参加者のみで開催する全日本学生マイクロマウス大会(年1回開催)を当財団の公式大会として開催している。その他に、当財団の認定、支援をしている地区大会と学生などが開催しているサークル主催の大会などがある。(観戦希望者はこちらのページで情報を公開しているので参照されたい。)
写真1:全日本マイクロマウス大会の会場風景(上)と審査員(下)
本レポートの読者は「自律」と「自立」の使い分けにこだわる方も多いと思う。まずは「自立型ロボット」の定義について解説したい。マイクロマウス大会では、「自立」の単語にこだわっている。ここで言う自立は、Autonomousを意味する自律であるだけでなく、ロボットの単体内にその活動の全て(メカ、電装系、ソフトウェア)が詰まっている、いわゆる「他の力をかりることなく、また他に従属することなしに活動できる」という意味の「自立」である。ゆえにマイクロマウスの大会はマイクロマウス競技、ロボトレース競技において「自立型ロボット」の単語をあえて使っていることに留意されたい。
自立=selfcontained 動作に必要な機能を全て自分で持っていて移動できること
自律=autonomous 一切外部からの操縦等を行わずに自主的に行動できること
そして各種大会で、主催団体、実行委員がこだわっているのは、競技会=Contestであるということである。一般的に競技会=Competition(競い合う)ことと理解されていると思うが、マイクロマウス大会では、Micromouse Contestと英語では書く通り、競い合うのは「技術」であり、記録に残るスピードではないというのが理解されにくいところではあるだろう。このこだわりの効用として、参加者の技術情報のオープンさと幅広い年齢層(下は中学生くらいから上は80代まで)になっている、という特長があげられる。参加者は一般的には学生からこの大会に参加することが多い。しかしながら、卒業しても参加する人も多く、社会人になり、家庭を持って一時的に参加しなくなっても、技術者としても成長した40代、50代になってから戻ってきてプロの犯行のようなキレキレの機体で参加する方も少なくない。もちろん参加者はスピードや1位になることを目指すが、そこに重きは置かないため、技術者として昨年の自分よりも0.1秒でも早くする工夫や成長を良しとする気風なのだ。そのため、チャンピオンも惜しみなく情報を公開するし、技術的に面白ければスピードや順位は関係なく尊敬、技術的な質疑応答がなされるのがこの大会参加者の特長でもある。例年の大会終了後の情報交換会は幅広い年齢層、業種のエンジニアが集まった異業種交流会のようになる。
次に、エンジニア達を惹きつけてやまない各ロボット競技について説明する。
★マイクロマウス競技について
マイクロマウス競技は、参加者自らが作った自立型ロボットが自律的に迷路を探索し、ゴールまでに達する最短時間を競う競技である。この迷路を解く自立型ロボットのことを「マイクロマウス」と呼ぶ。「参加者自らが作った」と書く通り、基本的にはオリジナルロボットであることが要求される。一部キットを使ったロボットの参加も可能だが、その場合でもソフトウェアやアルゴリズムには必ず自分のオリジナリティを入れることが必要である。競技としては、競技時間は大会や競技、迷路の大きさによって異なるが、おおむね5分~12分程度の競技時間を持ち時間とし、その時間内で5回走行して最速のタイムを競う。競技会では大会開催時刻に迷路が公開されるため、あらかじめ迷路を入力することはできない。そのため、多くの参加者は、1回目の走行で迷路を探索し、2回目以降で最短経路を導出してゴールまで走り抜けるような戦略を取っている。
マイクロマウス競技には、マイクロマウス競技とクラシックマウス競技がある。これらは迷路とロボットのサイズ制限の違いとなっている。まず、マイクロマウス競技に使うマイクロマウスの大きさは、その床面への投影が1辺12.5cmの正方形に収まらなければならない。走行中に形状が変化する場合も、常にこの制限を満たしていなければならない。ただし、高さの制限はない。同じく、クラシックマウス競技用のマイクロマウスは、マイクロマウスの大きさは、その床面への投影が1辺25cmの正方形に収まらなければならない。このサイズ以外はマイクロマウス競技と同様である。
迷路は、マイクロマウス競技は9cm×9cmを単位区画とし、最大32×32区画で構成される迷路(イメージしやすいようにサイズ的には畳にして4畳半位である)になるが、予選や地区大会では16×16区画(同じく2畳分位)の迷路を使うことが多い。迷路は各大会ごとに課題設定があり、地区大会などでは過去の迷路を使うこともあるが、全日本マイクロマウス大会ではゴール位置も一定ではなく、毎年オリジナルの迷路が公開される。また、クラシックマウス競技では、18cm×18㎝を単位区画とし、最大16×16区画で構成される迷路(イメージしやすいようにサイズ的には畳にして4畳半位である)を使用する。こちらはゴールが真ん中の区画にあらかじめ設定されている。
さて、マイクロマウス大会を歴史的にみると、この競技は、1977年にIEEE(米国電気電子学会)が提唱したことに始まり、日本では1980年より「全日本マイクロマウス大会」として 毎年開催されている。また、我が国で初めての「ロボコン」としてスタートした全日本マイクロマウス大会は、第42回の大会回数が示す通り40余年全日本大会が開催され続けている世界でも最も歴史あるロボット競技会でもある。マイクロマウス競技をはじめとする競技会は、年に一回の全日本大会の他、全国各地区の支部が独自に開催する地区大会や、学生日本一を決める為の「全日本学生マイクロマウス大会」なども開催しており、それぞれ多くの参加者を得ている。
アメリカで始まったものの、現在まで毎年続いているのは全日本マイクロマウス大会のみとなっている。そのため、欧米の他アジア地域からシンガポール・台湾・韓国等からも非常に技術レベルの高いロボットが多く参加するなど、事実上の世界大会となっている。
マイクロマウス競技は、当初マイクロプロセッサ技術の可能性検証の為の先端的な技術チャレンジとして普及したが、その後は学校等における技術教育の方法としても幅広く定着し、大学や高校にサークルが誕生した。2008年からは現在のマイクロマウス競技である小さいサイズのマイクロマウスで走行するチャレンジが始まった。現在ではマイクロマウス競技は現行の小さいほうを指すようになり、従来のマイクロマウスはクラシックマウス競技と呼ばれている。このようにマイコンと人工知能の進化、技術の進化によりマイクロマウスも毎年進歩していることに着目されたい。
近年では、学校だけでなく、サービスロボットの会社や、自動車業界がエンジンからEVにシフトすることを受けて会社の社員教育として取り組む社も増えてきている。
写真2:赤い機体はクラシックマウス、残りの3台はマイクロマウス
写真3 マイクロマウス機体の表と裏、吸引機構が見える。
写真4:クラシックマウスのステッピングモータータイプ(上:正面から見た機体、下:側面から見た機体)
写真5:現在では珍しくなったウィングタイプのクラシックマウス機体
写真6:クラシックマウスの競技風景
写真7:マイクロマウスの競技風景(上:セミファイナル16✕16、下:32x32)
★ロボトレース競技について
ロボトレース競技は、参加者自らが作った自立型ロボットが自律的に黒い床に引かれた白いライン (一周60m以下)の周回コースを出来るだけ早く走る(トレースする)ことを競う競技である。このロボトレース競技に出場するロボットを、「ロボトレーサ」と呼ぶ。(発音はロボトレーサ―、トレーサー等とも呼ばれる)
ロボトレーサは、最初の走行でコーナーに設置されたマーカーを利用して直線の長さやカーブを記憶し、次の周回では直線はできるだけ早く駆け抜け、カーブの手前で減速するというスピードコントロールがこの競技の醍醐味になっている。一般的な大会では競技時間3分、走行は3回までという制限の中での最速タイムで競う。順位は最速タイムでつけられるものの、評価はタイムだけでなく、機体作成でオリジナルに工夫してきた点も高く評価される。
初級者はラインをたどるのがやっとでも、上級者には、左右連続のコースをほぼ直進で進むショートカットなど、ただ単にラインの上を走るのではなく最適なコースを走る高度な技術課題もこなせる。
この競技は、ロボットのしくみや制御技術の基本を学習するという教育効果も高いだけでなく、上級者向けの技術チャレンジとしても参加者の開発意欲も高く、参加者が近年増えてきている。具体的には、中学生や高校生の教育課題としても注目されており、学校単位の参加も増えてきている。床に引かれたラインに沿って自律操縦の巧みさと走行するスピードを競うロボトレース競技は迷路のような機材がなくともビニールテープ等でもコースが作れるため、コロナ禍でもご家庭にコースを作ってチャレンジする方も多かった。また、トップクラスのプロのエンジニアが自己研鑽のために参加する例も増えてきているのも特長である。
写真8:ユニークな機体も出場している(上:全方向移動できる機体と製作者、下:走行の様子)
写真9:非常に洗練されたメカ機構の機体
写真10:ロボトレース競技の競技風景
★第42回全日本マイクロマウス大会
さて、ここで、大会を見て行こう。大会は、国際ロボット展とも協力し、新型コロナウィルス感染対策を十分に行ったうえで開催しており、開催後感染者の報告は無かった。
写真11:控室の感染対策の様子など
2022年3月第42回全日本マイクロマウス大会では、マイクロマウス競技、マイクロマウスセミファイナル競技、クラシックマウス競技、ロボトレース競技のすべてを開催した。ここで、マイクロマウス競技が2つあるのは、本来セミファイナル16✕16の迷路でタイムを競った後、32x32区画迷路で競技するが1日だけの開催だったためどちらかだけに参加するよう競技を分けた。迷路が倍になるとメモリ量、電池、走行制御、最短経路の導出に工夫を重ねないと処理が間に合わないなど地味な面でも開発の難易度が格段に上がるため、自信のある競技者だけがマイクロマウス競技に参加したので完走率が高くなっている。
それぞれ優勝のタイムと迷路、コースをここで示す(大会の結果一覧)。
マイクロマウス競技(32x32区画迷路)
1位のタイム 00:05.959秒
エントリー:20 参加:19 完走:17
迷路図はこちら
ビデオ(1)(あまりに早いので、1/8スローモーション動画になっています。音声注意)
ビデオ(2)(上記ビデオを実際のスピードに変換した動画)
写真12:第42回全日本マイクロマウス大会マイクロマウス競技優勝者
マイクロマウス競技セミファイナル(16✕16区画迷路)
1位のタイム 00:03.849秒
エントリー:32 参加:25 完走:10
迷路図はこちら
クラシックマウス競技
1位のタイム 00:03.697秒
エントリー:71 参加:66 完走:36
迷路図はこちら
ロボトレース競技
1位のタイム 00:11.197秒
エントリー:47 参加:40 完走:32
コース図はこちら
ビデオ robotrace
写真13:第42回全日本マイクロマウス大会ロボトレース競技優勝者と機体
また、下記の競技者にロボット学会学生特別賞が授与された。
競技 | 受賞者(所属) |
---|---|
マイクロマウス競技 | 山下 浩平 |
クラシックマウス競技 | 瀬谷 勇太(OOEDO SAMURAI) |
ロボトレース競技 | 山田 空知(新潟コンピュータ専門学校) |
結果を見るとものすごいタイムで走りぬいていることが見て取れると思う。今大会は国際ロボット展の会場をお借りできたこともあり、普段の大会にはいらっしゃらない方々も見学してくださった。国際ロボット展で活躍するロボット達やAMRや自動運転のベース技術の詰まったマイクロマウス競技やロボトレース競技の持つ技術の奥深さが理解して頂けた大会となった。
2022年度は2023年2月に開催予定なので、気になる方はぜひチェックして頂きたい。
公益財団法人ニューテクノロジー振興財団 https://www.ntf.or.jp/