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RoboCup世界大会レスキュー実機リーグ総合優勝


執筆:京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 メカトロニクス研究室 D1 道川稜平

 

浅田稔元会長のみのつぶ短信第28回「ロボカップ2022の衝撃」で、SHINOBIの優勝が報告され、「ロボカップレスキュー部門の実機リーグで松野先生が率いる京大の「SHINOBI」チームが優勝した.詳細報告は,先生からあると期待します.」とのご発言を受けて優勝報告を致します。

 

2022年7月13日~16日にかけてタイのバンコクで行われたRoboCup世界大会は1997年から開催されている世界最大規模の伝統ある国際ロボット競技会です.世界各国から多くの研究チームやロボットエンジニアが参加しており,サッカー,レスキュー,@ホームという3つのリーグを通して実践的な研究開発が行われています. 今回我々が参加した「レスキュー実機リーグ」では,災害現場を模したフィールドを用いてロボットの遠隔操作性能,不整地の走破性能,アームによる作業性能,マッピングや自動走行による自律探索性能など,災害対応ロボットに求められる多様な性能を総合的に評価します.(詳細についてはこちらの公式HPをご覧ください.)

 

図1: 授賞式での様子

 

我々は昨年10月に行われたWorld Robot Summitのインフラ・災害対応カテゴリのプラント災害予防チャレンジで準優勝したレスキューロボットFUHGA3に更なる改良を施し,RoboCup世界大会に挑みました.FUHGA3は幅50cm・長さ70cmというコンパクトなサイズのボディに,長さ40cmのサブクローラと全長1.5mのアームを持つクローラ型のレスキューロボットです. 体長の半分を超える長いサブクローラによって不整地を安定して走破することや,6自由度アームを使って精密な作業から力のいる作業まで1台でこなすことが可能です.センサ系としては2つの3次元LiDARや磁気センサ,デプスカメラ,多数の光学カメラ,マイク,スピーカー等を搭載しており,遠隔操作時の視覚支援や3次元点群を用いた自律性能の高さも特徴です.今回我々はWorld Robot Summitで反省を活かして,遠隔操作時の操作性の向上や,充実したセンサを生かした自律制御アルゴリズムの改良などを行い人機一体の完成度を高めて今大会に挑戦しました.その結果,接戦の末,念願の総合優勝を果たすことが出来ました(授賞式の様子 図1). 2020,2021年はコロナ禍で対面開催が出来なかったことを考えると,当チームとしては2019年大会から二連覇になります. また,京都大学単独チームとしては初の優勝となります.

 

RoboCup世界大会は二日間の予選の後,上位チームで決勝戦が行われます.予選では Maneuvering, Mobility, Dexterity, Explanation & Mapping 4カテゴリに分かれた計20種の課題から各チーム得意なものを16競技選択して2日間で取り組みます.ただし,成績の良かった10種分の得点で決勝進出チームが決定されるので,失敗した競技に再チャレンジすることも可能です.また,基本的にはオペレータによる遠隔操作を前提としていますが,自律制御によって課題をクリアすると点数が2倍になる「自律ボーナス」があります.

 

Maneuvering はロボットの巧みな操縦を評価するカテゴリで,狭路の走行や斜面上でのライントレース,パイプ状障害物の回避などが求められます.狭路の走行課題は,ロボットの車幅+10%しかない狭い通路を,壁に当たらずに通り抜けるという難易度の高い競技でした.我々は,車体側面と壁との距離を把握するという遠隔操作にとって困難な課題を,アームの手先カメラによって車体を俯瞰する作戦によって解決しました.また,斜面に引かれたラインをトレースする課題に対しては自律ナビゲーションで挑戦しました.見かけ上は単純なフィールドなのですが,斜面部分の摩擦が小さく,そもそも上ることができないロボットすら存在しました.FHUGA3も事前練習では,車体が横滑りしてしまいラインから外れてしまうなどの苦戦をしつつも,スピード等をうまく調整することで予選本番では無事成功.自律ボーナスを獲得することが出来ました.

 

図2: 階段昇降の課題に挑戦するFUHGA3

 

図3: 完全自律制御で滑る段差を乗り越えるFUHGA3

 

Mobility はロボットの走破性能を競うカテゴリで,階段や段差,ランダムステップなど多様な不整地からなる10mほどのフィールドを20分以内に何度往復できたかを競います.予選初日に挑戦した階段昇降の課題では,45度の急な階段とがれきが設置された30度の階段があるルートを往復しました(図2).始めは順調に階段を往復するFUHGA3でしたが,制限時間を半分ほど過ぎたころ,操作を誤りまさかの大転倒.観客からアー!と驚きの声の後,大きなため息が聞こえました.ロボット上面から床に落下し,横転した状態で停止するFUHGA3でしたが,事前に用意した転倒復帰コマンドが無事に動作し,補助員のサポートなしで横転状態から回復.駆動系やセンサ系の故障もなく,そのまま課題を続行することが出来ました.一転観客からは,歓声と拍手が起こりました.本来,転倒などのトラブルが起きた場合は補助員がロボットをスタート位置に戻して,(修理などをしつつ)2分間の待機ペナルティを受けなければいけないところでした.今回は,ロボットの丈夫さ,オペレータの冷静な判断,準備したコマンドが功を奏した結果,レスキューロボットシステムに要求される頑健さを示すことができたと言えます.また,Hurdlesと呼ばれる競技では,パイプでできた滑りやすい段差を持つ不整地フィールドを往復します(図3).我々はこの競技に自律ナビゲーションで挑戦. オペレータはスタート地点とゴール地点などを指示するのみで,FUHGA3はMappingと自己位置推定を行い自律的にフィールドを往復することができました.

 

不整地の走行はサブクローラを用いた3次元的な動作が必要なため,平地での自律ナビゲーションより難易度が高く,Mobilityカテゴリで自律ナビゲーションを成功させたチームはSHINOBIのみでした.3次元環境の走破を成功の背景には,今回大会から導入したサブクローラの自律制御がありました.その手法は,サブクローラを角度制御からトルク制御に変更し,姿勢に応じて最適なトルクで地面を押す,といういたってシンプルなもの.うまくパラメータを調整することで,LiDARなどのセンサ情報を用いず,自律的に地形へなじむことができます.そうしたサブクローラ制御をロボットの2次元的な自律移動と組み合わせることで,高負荷な環境推定を行わずに不整地環境の走破を成功させました.2次元的な自律移動は過去大会でも実績のある[Wang et al. 2021]の手法を用いました.この手法では3次元点群情報から周辺の2次元地図を作成しつつ周囲の地形と自分の進路からポテンシャルマップを生成し,進行方向ベクトルを決定します.

 

図4: 四方に向いた円筒の底に描かれた模様を調査する様子

 

Dexterity はロボットアームを用いた作業性能を競うカテゴリで,角材の組み立てや物体の挿入,錘の運搬などが課題となります.Inspectionと呼ばれる課題では,角材に5か所設置された径7cm,深さ15cmほどの円筒の底に描かれた模様を調査します(図4).人間が行えば難なく可能な競技ですが,少しでも円筒を斜めから見ると模様が隠れてしまうため,手先のカメラ情報のみを使った遠隔操作で行うのは至難の業です.FUHGA3はアームの制御に逆運動学を駆使しており,手先の座標をベースとした移動入力を指令できるため,他チームより有利に競技を進めることができました.また,角材の配置によって難易度が設定されており,始めはロボット近くの地面に置かれた状態から,クリアする毎に,ロボットから遠く高く配置されるようになります.我々は,もともと長い1.5mのアームに加え,サブクローラを使った立ち上がりによって作業範囲を広げ,多くの得点を獲得しました.例年Dexterityカテゴリの競技は得意なSHINOBIですが,今年も上位の成績を残し,部門賞であるBest in Class Dexterity賞を受賞することができました.

 

Explanation & Mapping はロボットの探索性能を競うカテゴリで,地図の作成や自律での経路探索,物体検知などセンサを活用するタスクが課されます.今大会では,確実に達成できる他カテゴリの競技を優先したため,このカテゴリにはほぼ挑戦しませんでした.

 

以上のような課題をこなし,我々は接戦の末に1位で決勝に進出,なんと二位のチームとの点差はたったの1000点満点中50点(5%)でした.



図5: 作業領域の広さを見せつけるFUHGA3(決勝「壁越し作業」)

 

図6: クロスした傾斜を乗り越える様子(決勝「ランダムステップ」)

 

図7: 3D LiDARによって迷路の探索と地図作成を行う様子(決勝「迷路の地図作成」と「迷路内の物体捜索」)

 

図8: 作成された地図,青のラインが壁,黄色の矢印がロボットの初期位置

 

最終日に行われた決勝戦では予選の得点はクリアされ,決勝進出した3チームが,走破性能,作業性能,探索性能を評価する6つの種目を連続で40分間取り組みました.走破性能については「階段昇降」と「ランダムステップ」,作業性能については「角材組み立て」と「壁越し作業」,探索性能については「迷路の地図作成」と「迷路内の物体捜索」が課題として選ばれました.特に,壁越し作業は,予選にはない決勝のみの課題で,JAEA(日本原子力研究開発機構)から提供されたフィールドでした.1mほどの壁の一方に検査対象が設置されており,壁のもう一方から運搬や検査を行います(図5).また,探索性能種目の迷路の地図作成は,走破性能種目のランダムステップ(図6)と組み合わされており,不整地の中で地図作成を行うという非常に高難度の競技となりました(図7,図8).

 

予選を2位通過した優勝常連チームであるタイのIrap Sechzigとは走破性能と探索性能で両チーム8点中7点対8点とほぼ互角ながら,1点遅れを取る戦いになりました.しかしながら,アームの作業領域が広いSHINOBIにとって,決勝から新設された壁越し作業が有利に働き,最終的に12点中11点対9点と2点差をつけ,勝利しました.3位だったドイツのHector DarmstadtはLiDARを用いた自律制御に特化したチームで,前回大会同様,優れた自律探索を実現していました.我々は探索性能では及ばなかったものの,他の2カテゴリで圧倒して点差を広げました.チームSHINOBIはレスキューロボットに求められる全ての機能を妥協無く充実させ,その総合力の高さを発揮して優勝を掴み取ることができました.

 

図9: メンバーの集合写真, 左上から時計回りに,松野先生,渋谷,王,道川,奥田,冨山,森本(その他メンバーは国内待機)

 

図10: 祝勝会での様子

 

最後に,チームメンバーを紹介します. 道川稜平(D1),王璽尋(研究員),奥田悠史(M2),渋谷拓海(M2),冨山峻(M2),松田宝徳(M2),森本祐生(M2),武田真承(M1),松野文俊(教授)です (図9). 図10はタイ料理レストランでの優勝祝賀会の様子です. 次回ロボカップ世界大会は,フランスのBordeauxで開催される予定です. 今後とも,社会で役立つレスキューロボットを実現すべく,研究開発に励みたいと思います.

 

 

大会のハイライト動画はこちらからご覧ください! [RoboCup 2022 Champion] Rescue Robot FUHGA3 - Kyoto Univ. Matsuno lab