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学生編集委員会企画:第39回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:移動ロボット)


 2021年9月8日から10日にかけてオンライン開催された第39回日本ロボット学会学術講演会セッション参加レポートをお届けします.

 今回レポートするセッションは9月8日の午後に開かれた「1H4:移動ロボット」です.
 このセッションでは合計7件の発表が行われました.まずはその内容を簡単にご紹介します.
 1件目は立命館大学・三菱電機(株)の研究グループによる,「カウンターウェイトの動的制御による移動ロボットの転倒抑制」です.この発表では,カウンターウェイトにより重心位置をアクティブに変更することで,転倒しにくい移動ロボットの構築に向けたシミュレーションの結果を報告しています.
 2件目は電気通信大学の研究グループによる,「転動形態と脚式移動形態に可逆的に変形可能な球殻ロボットの開発(第2報)」です.この発表では,転動と脚式移動を一つのロボットで実現した球殻ロボットに,ジャイロセンサによる制御を取り入れたことによる,移動時の直進性と速度の向上について報告しています.
 3件目は東京農工大学の研究グループによる,「重心移動による励振を利用した単リンクロボットによるブラキエーション動作の提案」です.この発表では,テナガザルが木の枝を渡る移動方法であるブラキエーションを規範とした単リンク型ロボットのモデルおよびシミュレーション,実機実験について報告しています.
 4件目は和歌山大学の研究グループによる,「4脚車輪型移動体のZMPを規範とした重心軌道生成」です. この発表では,著者らの開発する不整地移動ロボットRT-Mover PType WAの段差踏破手法のための,ZMPを用いた重心軌道生成手法を提案し,提案した手法におけるシミュレーションの結果について報告しています.
 5件目は静岡大学の研究グループによる,「回転脚を有する不整地作業用小型モビリティベースの開発」です.この発表では,不整地・傾斜面の走行を可能にする移動ロボットを開発するために,可変粘弾性特性を有した車輪の開発とその車輪の実機実験について報告しています.
 6件目は明治大学の研究グループによる,「深層強化学習で獲得した行動モデルと疎な位置情報の更新に基づく屋外自律走行アプリケーションの開発」です.この発表では,スマホアプリによる目的地設定により屋外を自立走行するロボットの開発において,あらかじめ地図を用意する必要がない,自律走行システムについて報告しています.
 7件目は中央大学・ピジョンホームプロダクツ(株)の研究グループによる,「複雑管を走行可能な直列拮抗駆動機構を搭載した波動伝播型管内検査ロボットの開発- アクチュエータの伸長長さを考慮した移動高効率化 -」です.この発表では,工場の細管内を検査するロボットに関する移動速度の損失モデルを構築し,それに基づいたロボット設計・開発の流れと研究室および実地試験の結果を報告しています.

 これらの中から,私が特に興味を持った3件目の「重心移動による励振を利用した単リンクロボットによるブラキエーション動作の提案」と5件目の「回転脚を有する不整地作業用小型モビリティベースの開発」について,詳しくレポートします.


「重心移動による励振を利用した単リンクロボットによるブラキエーション動作の提案」(東京農工大学)

Fig. 1 目標のブラキエーション動作(予稿原稿 [3] より転載)

 


Fig. 2 θ0 = −90 [deg] における励振ありのブラキエーション動作(予稿原稿 [3] より転載)


 この発表では,エネルギ効率がよい移動方法としてブラキエーションに着目したロボット開発をしています.発表者らは,特にカオスと呼ばれる複雑かつ非周期的な運動が発生しにくい単リンクブラキエーションロボットの開発を目的としています.
 まずここで,ブラキエーションについて説明します.テナガザルなどの生物はブラキエーションと呼ばれる移動方法により,身体を振って枝を渡ります.この移動方法では,両腕で交互に枝を掴み,重力を巧みに利用し移動します.エネルギ損失を重心の移動により小さくできるため,エネルギ効率が良いと言われています.そのため,従来研究では,多リンクを有するブラキエーションロボットが開発されてきました.
 しかしながら,発表者らは,多リンクロボットでは,カオスと呼ばれる複雑かつ非周期的な運動が発生し,計算が困難となることを課題に挙げています.そこで,この研究では,重心移動による励振を利用した単リンクブラキエーションロボットを提案しています.
 この発表では,Fig. 1に示すようなブラキエーションにより移動可能なロボットの開発を目的としています.具体的には,(1)に示すようにロボットが片方のグリッパを放し,(2)の状態を経て,(3)のように次のポールをつかむまでの運動を繰り返し,移動できるロボットです.この方法では,重心をうまく移動させなければ,摩擦などのエネルギ損失によりポールをつかむことができず,ロボットが停止してしまいます.そこで,動作モデルを構築し,ロボットを振り子のように揺らして振動を増幅する”励振”を発生するパラメータを決定しました.
 発表者らは,実際にこのパラメータを有する実機を開発し,ロボットがブラキエーション運動を可能にすることを実験より確かめました. Fig. 2に示す実験の結果のように,励振により摩擦などの損失以上に振幅を補うことで,ロボットがブラキエーションで移動することが確認されました.
 ブラキエーションという,一見面白い題材を扱っており興味がわきました.この発表を受けて,動物園でよく見かける移動方法ですが,実は奥が深いということがわかりました.いかにして生物が重心を移動させ,ブラキエーションを行っているのかに関しても興味がわきました.
 この発表では,実機の開発もされており,実際にロボットがブラキエーションを行う様子を動画で見ることができ,わくわくしました.今後,この移動方法の利点として挙げられているエネルギの効率の良さに踏み込んだ議論がなされることが期待されます.


「回転脚を有する不整地作業用小型モビリティベースの開発」(静岡大学)


Fig. 3 回転脚機構の模式図(予稿原稿 [5] より転載)

 


Fig. 4 凹凸吸収試験の様子(予稿原稿 [5] より転載)


 この発表では,凹凸のある傾斜面でも安定して作業を行える,不整地用小型モビリティベースの開発を目的に,車輪型移動ロボットと脚型移動ロボットの利点を兼ね備えたFig. 3に示すような機構(回転脚)を提案し,その開発状況を報告しています.
 土砂災害の防止などのために,下草刈りや枝打ち,植栽などの整備が必要となります.しかしながら,不整地傾斜面におけるこれらの作業は危険を伴います.そのため,不整地傾斜面を移動しながら,これらの作業を代行可能なロボットシステムの利用が期待されています.移動機構として,車輪型,クローラ型,脚型などがあります.車輪型は,不整地では接地性や機動性が低下してしまいます.クローラ型は,小型な場合は滑りが生じ,凹凸面においても接地が難しく機動性が低下してしまいます.脚型は,機構や制御が複雑で不整地傾斜面を移動するロボットとしての利用が難しい状況でした.
 そこで,この研究では,車輪型と脚型を複合するFig. 3に示すような機構を提案しています.この機構では,印加する磁界の強さによって,見かけの粘性を変化させることができる磁気粘性流体(MRF)が使用されています.MRFで満たされた親シリンダと子シリンダがそれぞれの内部空間を共有しています.したがって,各脚の周囲のコイルに印加する磁界の強さを調整することで,各脚を選択的に伸縮可能となっています.さらに,親シリンダによって,MRFの圧力も調節できる構造になっています.これらの,特長を生かし,不整地においては脚を柔軟に伸縮させることで段差の吸収を行い,傾斜面においては下方の脚を伸ばすことで,安定した走行を実現します.
 この発表では,開発した実機により,Fig. 4に示すレンガを乗り超えた移動の確認をしました.また,実際の屋外の傾斜30 deg 越えの土・雑草・木の根を含む不整地斜面の走行実験も実施されました.この実験においても,滑りや,姿勢の崩れがなく移動することが確認されました.
 簡易な機構で,車輪型と脚型の特徴を組み合わせており,とても興味がわきました.提案された機構は,他の分野においても利用可能だと思いますので,広く研究者の参考になることに期待したいです.また,発表では屋外での走行試験もされており,実用化にも期待したいと感じました.

 

 以上で「1H4:移動ロボット」のセッションレポートを終わります.この他にも,「2J3:フレキシブルロボット(1/2)」「2J4:フレキシブルロボット(2/2)」のセッションについてもレポートしていますので,そちらも是非御覧ください.

 

参考文献

[1] 柴田和寿,植村充典,森本 貴景,“カウンターウェイトの動的制御による移動ロボットの転倒抑制,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-01 , 2021.
[2] 阿部涼,金森哉吏,“転動形態と脚式移動形態に可逆的に変形可能な球殻ロボットの開発(第2報),日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-02, 2021.
[3] 赤羽聖,水内郁夫,“重心移動による励振を利用した単リンクロボットによるブラキエーション動作の提案,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-03, 2021.
[4] 澤田真,中嶋秀朗,“4脚車輪型移動体のZMPを規範とした重心軌道生成,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-04, 2021.
[5] 藤田晃太,丸地哲平,伊藤友孝,“回転脚を有する不整地作業用小型モビリティベースの開発,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-05, 2021.
[6] 古谷琢海,山口詩織,森岡一幸,“深層強化学習で獲得した行動モデルと疎な位置情報の更新に基づく屋外自律走行アプリケーションの開発,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-06, 2021.
[7] 多加谷一輝,伊藤文臣,成瀬雄太,渡邉淳一,中村太郎,“複雑管を走行可能な直列拮抗駆動機構を搭載した波動伝播型管内検査ロボットの開発,”日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,1H4-07, 2021.

 

伊藤文臣 (Fumio Ito)

2021年中央大学大学院博士前期課程修了後,同大学博士後期課程入学.同年より日本学術振興会特別研究員 DC1,日本ロボット学会学生編集員.現在に至る.
生物を規範とした外骨格型瞬発力発生機構や,蠕動運動による管内移動ロボットに関心を持つ.
IEEE graduate student member,日本機械学会学生会員.

 

 

日本ロボット学会誌40巻3号に掲載