2021年9月8日から9月11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.
今回,私が担当したのは,9月10日に行われたセッションの一つである「遠隔操作」です.離れた場所からロボットを動かすための最先端技術が紹介されました.まずは,プログラムの概要について述べていきたいと思います。
1件めは,川崎重工業(株)による「Successorを用いた組立作業の自動化に対するAI利用技術の開発[1]」です.ロボット化が困難であった人間の技能・感覚の駆使が必要になる作業を,Successorというロボットシステムを用いて自動化の促進をするというものでした.現場の操縦データをもとにAIのモデルを構築し,そのAIモデルを改良し続けていくことで段階的な自動化を行うようです.
2件めは,東京工業大学による「半自律掘削制御系における淀みの歪みに基づくタスク選択の優先度[2]」です.掘削作業における掘削,積み込みなどのタスクの分岐点において,アトラクタの淀みを設置することで機械を一時停止させ,その後に人が選択したいタスクの方向に力を加えることでタスクを実行するというものでした。その際,頻繁に行われるタスクに関してはアトラクタの淀みを意図的に歪ませることで,小さな力でもタスク選択を可能になっていました。その反面,あまり使われないタスクについては,タスク選択に必要な力を大きくすることで,操作ミスの抑制を実現していました。
3件めは,神戸大学による「加速度センサの数と配置の変更による油圧駆動ロボットの手先負荷力推定精度向上[3]」です.油圧駆動ロボットを遠隔操作する場合は,手先の動作を力覚フィードバックによって高臨場化させる必要があるという課題に対して,加速度計の数や配置を最適化することで手先負荷力推定精度の向上を図るというものでした.実機による実験も行われ,配置を改善したことにより,精度の向上が確認されていました.
4件めは,早稲田大学による「無人化施工における任意視点からの連続映像を提供可能な巨人視点インターフェースの開発[4]」です.建設機械を遠隔操作する際,巨人の視点のように機械の上空からの視点によって操作することで空間の認知を容易にするという研究でした。これにより,従来の複数カメラによる離散的な空間把握方法に比べ,高い操作性を実現していました.
5件めは,九州大学による「大きな通信遅延を有する遠隔操作ロボットのためのポイントクラウドを応用した操作支援に関する研究[5]」です.ポイントクラウドという物体の位置や形状を点の集合で表す技術を利用し,遠隔操作における映像の遅延による操作のしにくさを軽減するという研究でした.ポイントクラウドは映像と比べてもデータサイズが小さいうえ,任意に視点を変更できるという特徴から,シミュレーションにおいても高い効果を発揮していました.
6件めは,関西大学による「人×機械の遠隔融合システムの開発[6]」です.遠隔操作における人の奥行きの知覚を輻輳角,両眼視差,焦点調節が可能なステレオカメラにより検証するという研究でした.調節により立体視のしやすさなどの向上が見られました.今後は課題に対する正答率と立体視のしやすさとの相関について調査していくようです.
これらの中から特に興味を持った「無人化施工における任意視点からの連続映像を提供可能な巨人視点インターフェースの開発[4]」について,詳しくレポートしていきたいと思います.
無人化施工における任意視点からの連続映像を提供可能な巨人視点インターフェースの開発(早稲田大学)[4]
大きな建設機械を動かす場合,車載カメラのほか,周りの環境を移す環境カメラなどから構成された図1のようなマルチディスプレイから,操縦者は情報を把握しますが,車載カメラと環境カメラは空間的には離散しており,状況の把握が困難であるという問題がありました.そこで,建設機械の上空から,空間的に連続した映像を提供できる巨人視点インターフェース図2が開発されました.また,巨人視点インターフェースの効果検証を行うために,マルチディスプレイ環境下との比較実験が行われました.実験は,移動と手先に関して,単純な作業と複雑な作業の5つをタスク図3とし,8人を対象に行われました.その結果,図4に示すように複雑な作業において作業時間を短縮が確認され,巨人視点インターフェースの有効性が実証されました.発表では,操作時間に加え,配置誤差や誤接触回数,認知負荷が評価され,配置誤差,誤接触回数の項目においては巨人視点インターフェースの方が優れた結果を出していました.認知負荷においてだけは,巨人視点インターフェースの視点移動が,操縦者の移動によって行われるため高くなってしまっていましたが,それらの身体的な作業負荷を除いた精神的な作業負荷の項目では,作業負荷が軽減されていました.
今回は,シミュレーション環境においての研究となっていましたが,現実世界においてもドローンなどと連動させることができれば,とても実用的な技術になるのではないかと個人的に思いました.
図1 マルチディスプレイ[4]
図2 巨人視点インターフェースの概要[4]
図3 実験タスク[4]
図4 実験結果[4]
以上,「遠隔操作」のセッションレポートでした.ほかにも様々な最先端の技術を用いた研究が発表されていますので,気になった方は是非ご一読ください.
参考文献
[1]倉島,蓮沼,岸田,山本,東,辻森,掃部:"Successorを用いた組立作業の自動化に対するAI利用技術の開発",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-01,2021.
[2]岩野,岡田:"半自律掘削制御系における淀みの歪みに基づくタスク選択の優先度",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-02,2021.
[3]島村,永野,田崎,横小路:"加速度センサの数と配置の変更による油圧駆動ロボットの手先負荷力推定精度向上",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-03,2021.
[4]喬,茂木,水越,岩田:"無人化施工における任意視点からの連続映像を提供可能な巨人視点インターフェースの開発",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-04,2021.
[5]森,廣江,荒田:"大きな通信遅延を有する遠隔操作ロボットのためのポイントクラウドを応用した操作支援に関する研究",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-05,2021.
[6]春名,高島,荻野:"人×機械の遠隔融合システムの開発",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2E1-06,2021.
若林諒(RyoWakabayashi)
2021年青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科卒業.現在同大学大学院博士課程前期課程在学中.(日本ロボット学会学生会員)