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消防研究センター見学記(編集委員会便り)


執筆日 2019年9月18日

 

こんにちは.本年度,ロボット学会誌編集委員会の委員長を仰せつかっている東京大学の山本です.

編集委員会では2カ月に一度のペースで委員会を開催しており,学会誌の特集企画などについて話し合いをしています.このたび,消防研究センターに場所をお借りしまして,委員会開催とあわせてセンターの見学をさせていただきましたので,簡単ですが見学記をお届けします.

 

消防研究センターは消防防災に関する研究開発や,火災原因調査の実施・支援などを任務とする消防庁の組織で,東京都調布市と三鷹市の市境に位置しています(敷地内の遊歩道が市境になっているそうです).隣の敷地には消防大学校があり,幹部消防官の育成を行っています.

 

今回は2時間ほどかけて,センター内の施設を見学させていただくとともにロボットに関連した研究開発をご紹介いただきました.

 

最初に見せていただいたのは大規模火災訓練施設.

これは天井高が20mほどある巨大な建物で,建物内で大規模火災の再現が行えるそうです.見学したときは,ちょうど消防大学校の方々が消火訓練を行っておられました.円筒型の巨大容器に燃料を入れて火をつけると,巨大な炎が立ち上ります(写真1,2).これを消火していく様子を見せていただいたのですが,なんといっても印象に残ったのは,立ち上る炎のすさまじい迫力.ガラス窓越しの見学でしたが,窓越しでも相当な放射熱を感じました.消防官の方々は炎の近くで消火されてましたが,どれほど熱いのだろうかと頭の下がる思いがいたしました.

 


写真1

 


写真2

 

続いてお邪魔したのは原因調査室.

ここでは,火災現場で焼け残った物品を持ち込んで,何が火災の原因であったのかを調査しています.室内には光学顕微鏡,SEM,X線撮影装置が備え付けられており,例えば電気製品内部の状態や配線の燃え具合などから,火災の原因を探るのだそうです.また,車両火災などのように対象物が大きい場合には,火災現場に赴いて現地の消防本部と共同で原因を調査するといった活動もされているとのことでした.

 

次に拝見したのはサーマルマネキンシステム.写真3がそのマネキンですが,優れた耐熱性を持っており内部には多数の温度センサが埋め込まれています.このマネキンに消防用防護服を着せて,四方から火炎放射をして防護服の耐熱性能を測定するそうです.残念ながら,実際に火炎を放射する様子は見れませんでしたが,火炎を浴びて表面が焼け焦げた防護服などを拝見しました(見づらくて恐縮ですが写真3の下に写っているのが焦げた防護服です).

 


写真3

 

これら施設見学の後は,ロボット関連のお話を伺いました.

まずは,ドローンの活用について.

消防研究センターでは,災害救助活動へのドローン活用を進めており,現在は主に土砂災害の現場でドローンを活用されているそうです.ちなみに,土砂災害というのは日本国内で平均して年間1000件近く発生していて,昨年に限って言えば3000件を超える土砂災害があったそうです.

土砂災害の救助・復旧作業では,作業中に新たな土砂崩れが起こって二次災害が発生する可能性も高く,そうした二次災害を少しでも減らすためにドローンを活用されています.例えば,昨年発生した北海道胆振東部地震の際には,土砂災害現場をドローンで上空から観察し,湧水等の観察をもとに危険予測をして現場の安全管理に対するアドバイスをされたそうです.

 

一方,市街地等で発生する火災の消火活動にドローンを活用しようという取り組みもご紹介いただきました.ドローンは安価なこともあり,現在,国内では100を超える消防本部に200機近いドローンが導入されているそうです.しかし,ドローンの活用方法が十分には理解されておらず,実際に消火活動に使われているのは,わずか1割とのこと.現場でドローンを運用するには数名の消防官をドローン関係に割り当てなくてはなりませんが,それだけの人員の余裕が現場にはないのが実情のようです.そのため,なかなかドローンが使われず,それゆえに事例も蓄積されていかない,という悪循環に陥っています.そこで,こちらのセンターで,ドローンの効果的な活用方法や,利用にあたっての課題を検討し,その結果を各地の消防本部にフィードバックする,という活動をされているそうです.

 

最後にご紹介いただいたのは,リアル・サンダーバードともいえるロボット消防隊(とは仰ってませんでしたが,勝手にそう感じました)のお話.自律的に動いて火災現場を偵察し,消火活動を行う合計4台(+基地となる搬送車両1台)のロボットシステムです.「SCRUM FORCE:スクラムフォース」という名前で,市原市消防局に試験配備されています(写真4).

 


写真4

 

このロボットシステムを開発する契機となったのは,東日本大震災の際に市原で発生したLPG貯蔵施設の火災だったとのこと.当時,燃え盛るLPG施設の熱量があまりに膨大なため消防隊が火災現場に近づくこともままならず,火が弱まるのを待つしかなかったそうです.そこで,人が活動できない現場でも消火活動できるロボットを作ろう,ということで開発がスタートしたのだそうです.

 

ロボットに期待される役割は2つあり,一つは自律的に移動して火災現場の情報収集を行うこと.もう一つは,自律的に最適な位置に部署して放水を行うこと.それぞれの役割に対して2台ずつのロボットが開発されています.偵察用としては,上空から偵察するドローンと,地上から偵察する地上走行型ロボット.消火用としては,放水砲を備えたロボットと,放水用のホースをハンドリングするロボットの2台です.放水用のロボットは世界最高レベルの耐熱性能を持っており,想定される最大の火災に対しても50mまで近づいて消火活動ができるそうです.また,ロボットとあわせて高耐熱性能を持った放水ホースも開発しており,高温のもとでの消火活動を可能としています.なお,この消火ホースは直径が15cmの巨大なもの.とても重く人が操るのは困難ですが,ロボットはそれを自在に操り大量の放水を実現します.

 

これら4台のロボットは,基地となる搬送車両にのって現場に向かいます.搬送車両内には指令システムがあり,そこからの各ロボットに指令を送る仕組みになっています.搬送車両に発電機も搭載されているため,外部電源が無くてもこれらのロボットシステムは稼働できるとのことでした.

このロボットシステムは今年4月に試験的に配備されたばかりだそうで,まだ,実際に火災現場で運用されてはいないようです.火災は起きないに越したことはありませんが,万一の際には,これらのロボットが火災現場で大活躍してくれることを期待しています.

 

以上が見学記となりますが,いかがでしたか?

消防研究センターでは毎年4月に一般公開も行っています.興味を持たれた方は,是非,一般公開に足を運んでみてはいかがでしょうか.