SEARCH
MENU

学生編集委員会企画:第39回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:生物模倣ロボット)


 2021年9月8日から11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.今回レポートするのは,セッション2日目,9月10日の午前に開かれた「生物模倣ロボット」になります.


 このセッションでは,「生物の形状や特性を模倣し,ロボットに活用する」といった研究について7件の講演が行われました.近年話題になりつつある生物規範ロボットについて様々な例が挙げられており,非常に楽しく聞かせていただきました.
 以降,順にプログラムを紹介します.


 1件目は,九州工業大学のグループによる「軽量かつ羽ばたき周波数が低いサーボモータ型羽ばたき飛行ロボットの開発」です.実際の鳥を参考にした羽ばたき飛行ロボットを作成し,羽ばたき角度ごとの飛行性能の違いについて検証していました(図1).細かいところでは0.4degほどの違いが飛行性能の違いを生むことを動画にて説明してくださり,非常に興味深く感じました.

 


図1 羽ばたき飛行ロボット [1]

 

 2件目は,大阪大学のグループによる「昆虫の高速羽ばたき機構を模したロボット開発のための数理モデル構築」です.高い羽ばたき数で飛翔する昆虫などを対象として,羽ばたきを起こす際に重要な胸郭と筋肉の相互作用について数理的にモデル化し,検証していました(図2).実際の昆虫に即したモデル化を行った場合,胸郭-筋肉系の固有周波数が持続振動角周波数と似た値になることから,対象とした昆虫たちが自励振動を利用して飛翔している可能性を示されました.ご講演を拝見し,生物学と工学の両面において非常に面白い見解であると思いました.

 


図2 胸郭と筋肉の相互作用によって羽ばたくハチ [2]

 

 3件目は,九州工業大学のグループによる「鳥の筋骨格構造を模倣した羽ばたきおよび捻り運動の実現」です.従来研究であるツイストドライブ機構を利用した羽ばたき運動に加え,同機構によるひねり運動の実現を目指した片翼ロボットの製作,およびその動作検証を行っていました(図3).ひねり運動とは,羽ばたきに加えて翼の先端部をひねることにより推力および揚力を有効に生み出す運動を指し,実際の鳥が行っているものです.この度の研究で開発された片翼ロボットは,「羽ばたきながら捻り運動を行うことのできる機構」として提案されていました.

 


図3 ツイストドライブ機構を取り入れた羽ばたきロボットの全体図 [3]

 

 4件目は,電通大学のグループによる「多連結移動ロボットを用いた階段清掃のための歩容設計」です.ヘビ型ロボットを用いた階段清掃のための階段の上り方について二種類提案し,その有用性についてシミュレーションを用いて検証していました(図4).転倒を防ぐために,階段を上る際のヘビ型ロボットの形状について細かく設定,検討しており,二種類のうちの一つである鉛直面旋回(頭部を一旦鉛直上方向に伸ばし,上から着地する形で次の階段に到達する方法)では,着地の前に直線部を作ると安定性が増す,といった工夫をなされていて,面白いアイディアであると思ました.

 


図4 他連結移動ロボットの昇降歩容 [4]

 

 5件目は,電通大学のグループによる「2つの螺旋を連結した管内清掃用ヘビ型ロボットの滑り解析」です.配管内の清掃を螺旋状に這って移動して掃除するというヘビ型ロボットにて,ヘビ型ロボットの中心あたりで螺旋の方向を逆転させるという,螺旋と逆螺旋の両方を持つロボットを考案されていました(図5).動作時には螺旋部と逆螺旋部で動作速度を変えることで滑りを生じさせ,意図的に引き起こした滑りを活用して清掃を行うというものです.本講演では,生じた滑りについて実施した解析に関して発表されていました.シミュレーションを用いて,単純な螺旋捻転では滑りが小さいこと,考案した機構では滑りが生じていることを提示し,考案した機構が効率的な清掃に利用できることを示していました.

 


図5 螺旋逆螺旋ヘビ型ロボットの概略図 [5]

 

 6件目は,早稲田大学のグループによる「樹木登攀が可能な小型脚ロボットの開発―第 3 報:昆虫規範型劣駆動脚を備えた 6 脚ロボットの開発―」です.従来の樹木登攀ロボットの特徴を抽出し,一部の尺取虫型ロボットで用いられている形状記憶合金アクチュエータの利点である「高い静音性」,節足動物型ロボットの利点である「ボディの変形が少ないことによってカメラや回路を載せやすい」という特徴,さらには一般的な昆虫の特徴である「様々な種類の樹木をつかむことができる脚の構造」,これらを組み合わせた新たな樹木登攀ロボットを提案していました(図6).提案ロボットにて樹木への把持力を計測し,表面性状の粗い樹木に対して十分な把持力を持つことを示されました.このように既存のものを組み合わせて新たなモノを作る,といったアイディア性は私も見習いたいと思います.

 


図6 小型脚ロボット [6]

 

 7件目は,中央大学のグループによる「シャコ規範型瞬発力発生機構の開発」です.シャコは高速パンチによる衝撃波によって貝などのかたい殻を割っており,その動作をロボットに応用して海底の岩盤破壊に活用する,という発表をなされていました.従来研究にてその基礎研究を行い,本講演では,その機構の小型化や,実験およびシミュレーションによるキャビテーションの発生条件モデルの開発,ロボットへの応用について発表されていました(図7).実機実験では,衝突箇所以外ではキャビテーションを生じさせず,打撃の瞬間のみキャビテーションを発生させることが可能であったことを示し,腕振り中のキャビテーションによる壊食を防止できる可能性を示されました.手作り感あふれるロボットで,勝手な想像ですが楽しみながらロボットの開発に取り組んでいる印象を受け,うらやましく思いました.

 


図7 開発された機構 [7]

 

 以上,「生物模倣ロボット」セッションレポートでした.私はこのほかにも「ディープラーニング (2/2)」のセッションレポートも担当しています.ぜひそちらも一読ください.

 

参考文献

[1] 陣内,大竹:“軽量かつ羽ばたき周波数が低いサーボモータ型羽ばたき飛行ロボットの開発”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-01, 2021.
[2] 藤森,若本,増田:“昆虫の高速羽ばたき機構を模したロボット開発のための数理モデル構築”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-02, 2021.
[3] 岩尾,大竹:“鳥の筋骨格構造を模倣した羽ばたきおよび捻り運動の実現”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-03, 2021.
[4] 木村,中島,田中:“多連結移動ロボットを用いた階段清掃のための歩容設計”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-04, 2021.
[5] 谷平,中島,田中:“2つの螺旋を連結した管内清掃用ヘビ型ロボットの滑り解析”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-05, 2021.
[6] 石橋,石井:“樹木登攀が可能な小型脚ロボットの開発 ―第 3 報:昆虫規範型劣駆動脚を備えた 6 脚ロボットの開発―”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-06, 2021.
[7] 伊藤,石井,車谷,加賀谷,中村:“シャコ規範型瞬発力発生機構の開発”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2K2-07, 2021.

 

山中幸季 (Koki Yamanaka)

2022年千葉大学大学院融合理工学府基幹工学専攻機械工学コース博士前期課程在学. 移動ロボットの研究に従事.

 

 

日本ロボット学会誌40巻4号に掲載