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みのつぶ短信第24回「RSJ2021オープンフォーラム11「COVID-19が与えた課題と将来に向けた情報・ロボットシステムの社会実装」を聴講して」


 

2021年9月11日に開催されたRSJ2021オープンフォーラム11「COVID-19が与えた課題と将来に向けた情報・ロボットシステムの社会実装」に聴講参加したので,速報を伝えます.報告内容は報告者浅田の主観によるものですので,お含みください.本短信のあと,個々のパネリストの先生方からのコメントなどがロボ學や学会誌に掲載されることを期待しております.


本フォーラムは,2020年5月16日付けの学会発表「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックに対する日本ロボット学会の対応について」[1]に基づき,新たに組織された「新型コロナウイルス感染症に対する医療現場・生活環境の保全を支援するロボット技術の社会実装調査研究委員会」(委員長:本田幸夫先生(東京大学))での議論されてきた課題について,RSJ2021時点でのサマリーとして報告するということで企画されました.学会員のみだけでなく,一般の方々にも参加いただき,この課題を広くかつ深く議論できればとのことです.当日のプログラムを以下に示します.


モデレータ:本田幸夫(東京大学)
13:00- 開催挨拶 本田幸夫(東京大学)
13:05- パンデミック時とその後の社会の再構築 瀬名秀明(作家)
13:30- コロナウイルス感染症に関する研究開発動向と課題 佐久間一郎(東京大学)
13:40- 医療・高齢者対応現場の現状、システム社会実装への要求 正宗賢(東京女子医科大学)
13:50- システム社会実装を阻む問題~ロボットの社会実装経験からの私見~ 高西淳夫(早稲田大学)
14:00- 事業・経済から見たシステム社会実装成立の条件・考え方 三治信一朗(Pwcコンサルティング合同会社)
14:10- パネルディスカッション
15:00  閉会

 

まず最初にモデレーターの東京大学の本田幸夫先生から,フォーラムの開催趣旨の説明があり,そのあと,プログラムに沿って,各パネリストのトークが続き,そのあとパネルディスカッションに移りました.各パネリストのトーク内容を簡単に紹介します.


作家の瀬名秀明先生のトークは,「パンデミック時とその後の社会の再構築」というタイトルの基調講演でした.ウイルス研究に造詣が深く,そこを起点にロボ學の貢献に対する大きな期待と責任を明確に述べられました.これは,昨年のRSJ2020の特別講演でも述べられたことですが,特に今回は,パンデミックにからめて統合知のさらなる必要性(本物の分野融合の重要性[2])とAIではなく身体性を有するロボットの貢献の重さを強調され,身の引き締まる思いでした.他にも多くの話題がありましたが,瀬名先生の許可を得て,一枚だけスライド「学会もまた、道徳部族」を示します.

 


次に,東京大学の佐久間一郎先生からは「コロナウイルス感染症に関する研究開発動向と課題」のトークです.政府の内閣府健康医療戦略本部に参加され,健康・医療戦略専門調査会の座長として活動され,詳細な報告をいただきました.治療法,ワクチンの研究開発動向,機器、システム等の研究開発動向[3]に続き,今回のパンデミック以前から指摘されていたコミュニティーの課題がさらにポップアップしてシリアスになり,未来イノベーションWGからのメッセージとして,「誰もが支え手になり、共に助け合う『ネットワーク型』へ」が提案され[4],社会実装にむけた課題が示されました.


三番目のトークは.東京女子医科大学の正宗賢先生の「医療・高齢者対応現場の現状、システム社会実装への要求」でした.東京女子医大での先端的な取り組みが紹介されました.ユニークなダンボールケアユニットも現行法の壁にぶち当たったり,ロボット導入の難しさも指摘されました.その解決に向けたデジタルツイン手術見学[5]は社会的なコンセンサス形成に役立ちそうであることが,あとのパネルディスカッションでも議論されました.正宗先生の許可を得て,そのスライドを示します.

 

 


ご自身も心臓手術を体験された早稲田大学の高西淳夫先生から,「システム社会実装を阻む問題~ロボットの社会実装経験からの私見~」というタイトルのトークを頂きました.歩行障害シミュレーション,自走式大腸内視鏡,咀嚼,オーラルマッサージ,患者シミュレータ,デンタロイド,縫合手術手技訓練システム,気管挿管訓練ロボット,新生児シミュレータなど多種多様な医療ロボットの開発を通じ,ロボット特区などの社会実装の実証実験などの取り組みから,ユーザーを含んだコミュニティー形成の重要性が指摘されました.


最後に,Pwcコンサルティング合同会社の三治信一朗氏からコンサルの立場から「事業・経済から見たシステム社会実装成立の条件・考え方」を示していただきました.特に社会実装の観点から,未来は降ってくるのではなく,自分たちが創造できること,社会受容性とコンセンサスづくりは鶏と卵の関係,望ましい未来の創造→投資の誘発→エコシステムの構築→未来のアップデートという構図は非常に頷けるものでした.


5人のパネリストのポジショントークのあと,やや時間が押す中,モデレーターの本田先生から討論の口火が切られ,パネリスト間での中身の濃い質疑応答がかわされました.特に社会実装の観点から,さまざまな課題が抽出され,進展が期待されるトピックも指摘され,様々な分野を渡る継続的活動を今後も推進することをメッセージとして終了しました.

 

[1] https://www.rsj.or.jp/info/news/2020/202005180133.html

[2] 宮野公樹『研究を深める5つの問い』(2016)ブルーバックス,講談社.

[3] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/tyousakai/dai28/gijisidai.html

[4] https://www.mhlw.go.jp/content/000490549.pdf

[5] https://www.youtube.com/watch?v=9nhMslQBNrk 

 

浅田稔

元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授