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RSJ2019学生講演レポート [3K1(OS9):インテリジェントホームロボティクス(2/4)]


執筆日 2019年9月12日

執筆者 東風上奏絵

 

 第37回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2019)が,9月3日から7日まで,早稲田大学で開催されました.このレポートでは,6日に行われたセッションの1つである「インテリジェントホームロボティクス(2/4)」の様子を報告します.

 本セッションでは,生活支援ロボットHSR(Human Support Robotの略) を⽤いた研究や競技会に関連した発表と議論が多数⾏われました.インテリジェントホームロボティクスのセッションの投稿数は,セッション全体で2 番⽬に多い数であり、盛り上がりが感じられました.

 

写真:HSRのイラスト(MID 松坂氏のご発表スライドより).人と共に生活し,人の手助けをするHSRの様子が描かれています.

  

 まずは,各発表の概要をご紹介します.

 山本氏(トヨタ自動車(株))の「HSR開発コミュニティによる研究開発推進」では,HSR開発コミュニティの活動を通して研究開発を加速していく取り組みについての発表がありました.

 長井先生(大阪大学)の「HSRを用いた動作学習」では,HSRを用いた確率的生成モデルに基づくロボットの学習についての発表がありました.

 Lotfi先生(立命館大学)の「Deployment of a Containerized Software Development Environment for Human Support Robots」では,ソフトウェア開発を促進するHSRのソフトウェアのコンテナ化についての発表が行われました.

 松坂氏(MID)の「継続してスコアを向上させるロボットシミュレーション競技 HSR Home Chores Challengeの概要と展望」では,HSRのシミュレータを使った競技会(HSR Home Chores Challenge)を通してソフトウェアの技術開発を促進していく試みについての発表が行われました.

 五十嵐先生(玉川大学)の「サービスロボットに必要な標準性能評価法に関する検討」では,WRS (World Robot Summit) 2020の競技会から標準性能評価法(Standard Performance Test, STM)をつくる試みについての発表が行われました.

 朱氏(信州大学)の「Swept Volumeの検索に基づくリーチング動作のオンライン生成」では,ロボットが事前に動いた軌跡を記憶していくことで,リーチング動作を高速に実行するための手法が発表されました.

 長濱先生(信州大学)の「扉操作における二次元視覚画像を用いた成否判定」では,生活支援ロボットによる扉操作の失敗を自律的に検知し,復帰するための手法について発表がありました.

 

 これらの中から,山本氏の「HSR開発コミュニティによる研究開発推進」,松坂氏の「継続してスコアを向上させるロボットシミュレーション競技 HSR Home Chores Challengeの概要と展望」,五十嵐先生の「サービスロボットに必要な標準性能評価法に関する検討」について詳しくレポートします.

 

「HSR開発コミュニティによる研究開発推進」

  HSR開発コミュニティの活動を通して研究開発を加速していく取り組みについての発表でした.HSRは小型で安全性の高いロボットです.Fetch(モノをつかむこと)とCarry(モノを運ぶこと)が主要なターゲットタスクとして考えられています.その理由は,要素技術をほぼ含む汎用性と統合的アプローチが必須だからです.その一方で,HSRには機構的ポテンシャルはありますが,ソフト,センシングでその良さを活かし切れていないという課題があります.そこで,HSR開発コミュニティをつくり,情報共有し,研究開発を促進することを目指しています.HSR開発コミュニティは,世界各国の大学や企業の研究チームで構成されており,2018年末時点で国内外12カ国44機関 (2019年9月現在、国内外13か国、49機関)にまで広がっています.

 しかし,HSRを用いた学会発表,学会誌発表の動向を見てみると,海外では発表数が増加しているものの,国内では停滞気味です.この状況を打破するために,毎年開催しているHSRユーザ会を RSJ2019に今年初めて組み込むことになりました.また,WRS (World Robot Summit) 2020の競技会に向けて競技と研究の一致を図っています.具体的には,シンプルで再現可能な競技場を作ること,片付けと人への手渡しのみのシンプルな競技ルールの策定です.さらに,大学間の横断的な連携促進を行っています.

 

「継続してスコアを向上させるロボットシミュレーション競技 HSR Home Chores Challengeの概要と展望」

  HSRのシミュレータを使った競技会(HSR Home Chores Challenge)を通してソフトウェアの技術開発を促進していく試みについての発表でした.シミュレータを用いた評価はしばしば現実世界と比較され,意味があるのかと言われがちですが,予測不能性と再現可能性を兼ね備えており,重要です.HSR Home Chores Challengeでは,部屋の片付けとカーディーラーの店舗を想定した,人が移動する環境でのロボットの自律移動が競技種目となっています.競技期間は約2カ月で,継続的にプログラムを改良していくことができます.発表では,競技で1位になったチームのシミュレーションの様子が紹介されました.レポート報告者は,シミュレータ上で複雑な世界が再現されていること,さらに,その世界が滑らかに動いていることに驚かされました.

 

写真:移動タスクの様子.移動範囲を塗りつぶしていき,塗りつぶしが多いほど高得点をあげることができます.

 

「サービスロボットに必要な標準性能評価法に関する検討」

  WRS  (World Robot Summit) 2020で行われる競技から標準性能評価法(Standard Performance Test, STM)をつくる試みについての発表です.元々は,アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が2000年頃からロボット用標準試験法を作っています.

 

写真:NISTのSTM導入のメリット

 

 発表では,ドローンのSTMが紹介されました.これらの取り組みを参考に,WRS2020においてサービスロボット向けのSTMを作ろうとしています.現在の進捗として,WRS2018のパートナーロボットチャレンジを観戦した上での課題が述べられました.タスクとシナリオが混在しており,評価が難しそうだと感じられたとのことです.そこで,ロボットを実際に使うユーザの意見から評価を検討するのが良さそうだという判断に至ったとのことですが,WRS2020で競うレベルのサービスが行えるロボットを実際に使うユーザはまだいないため,介助犬の訓練法を参考に進めていこうとしているそうです.サービスロボットを評価する仕組みを作るのはとても重要なことであり,競技会を通して評価法を作る試みが既に始まっていることに驚きました.

写真:今後の方針についてのスライド.介助犬の訓練法からサービスロボットの評価法を作れないか,今後検討されるそうです.

 

 

 今回聴講した発表は,共通のロボットをプラットフォームとして用いながらも,様々な分野からの技術的な内容が多く,共通のロボットが研究プラットフォームとして提供されることのありがたみ,学会のセッションという形で情報交流することの意義を強く感じました.

 

 「インテリジェントホームロボティクス(2/4)」の報告レポートは以上です.この他にも,「ロボットと生きる・ロボット學再考(1/2)」,「ロボットと生きる・ロボット學再考(2/2)」のセッションについても報告していますので,そちらも是非ご覧ください.

 

 

3K1_ OS9_インテリジェントホームロボティクス(2/4)

3K1-01   HSR開発コミュニティによる研究開発推進

○山本 貴史(トヨタ自動車(株)),朝原 佳昭(トヨタ自動車(株)),横地 泰容(トヨタ自動車(株)),岩本 国大(トヨタ自動車(株)),池田 幸一(トヨタ自動車(株))

3K1-02   【基調講演】HSRを用いた動作学習 -家庭用サービスロボットの学習に基づく自律化の試み-

○長井 隆行(阪大)

 

3K1-03   Deployment of a Containerized Software Development Environment for Human Support Robots

○Lotfi El Hafi(Ritsumeikan University),Shigemichi Matsuzaki(Toyohashi University of Technology),Shunki Itadera(Nagoya University),Takashi Yamamoto(Toyota Motor Corporation)

3K1-04   継続してスコアを向上させるロボットシミュレーション競技 HSR Home Chores Challengeの概要と展望

○松坂 要佐(MID),松野 喜幸(トヨタ自動車),朝原 佳昭(トヨタ自動車),村瀬 和都(トヨタ自動車),寺田 耕志(PFN),山本 貴史(トヨタ自動車)

3K1-05   サービスロボットに必要な標準性能評価法に関する検討

○五十嵐 広希(玉川大学)

3K1-06   Swept Volumeの検索に基づくリーチング動作のオンライン生成

○朱 瑞(信州大学),長濱 虎太郎(信州大学),竹下 佳佑(トヨタ自動車),山崎 公俊(信州大学)

3K1-07   扉操作における二次元視覚画像を用いた成否判定

○長濱 虎太郎(信州大),山崎 公俊(信州大)