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学生編集委員会企画:第41回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:宇宙ロボット(2/2))


1. はじめに

2023年9月11日(月)から14日(木)にかけて仙台国際センターにて開催された第41回日本ロボット学会学術講演会のセッションレポートをお届けします.


2. セッション

今回レポートするのは3日目,9月13日に開催された一般セッション「2G2宇宙ロボティクス(2/2)」です.このセッションでは5件の発表が行われました.まずはその内容を簡単にご紹介いたします.
1件目はJAXAによる「デブリ除去捕獲機構HKKの捕獲時におけるターゲット引き込み手法の検討[1]」です.デブリ除去捕獲機構HKKのようなターゲットエンドエフェクタ間にスベリを発生させる必要があるメカニズムに対して、根本までの引込みの解決手法を提案しています.
2件目はJAXAによる「軌道上衛星の機能再生を目指したロボティクスによるモジュール取付サービスの構想検討[2]」です.故障リスクを抱えている運用中の衛星に対して,ロボティクスを有する宇宙機を用いて独立的運用可能なモジュールを取り付けるサービスの要求機能・実現方式の概念を検討しています.
3件目はJAXAによる「新型ISS船内自律飛行型カメラロボット(Int-Ball2)の軌道上実証プラットフォーム活用について[3]」です.2023年6月にISSへ打ち上げられたInt-Ball2が有する技術実証プラットフォーム機能について報告しています.
4件目は慶應義塾大学による「不整地移動ロボットのスリップによる経路逸脱を考慮した追従制御則の構築[4]」です.経路逸脱可能性を考慮したImproved-SDRの提案により,不整地において車両が安全に走行できる領域を設定しています.
5件目は慶応義塾大学による「軟弱地盤におけるマルチパス現象に注目した小型車輪の走行特性解析[5]」です.月面探査で用いられる小型かつ軽量な不整地移動ロボットのMulti-pass effectを実験的に解明することを目的とし,小型車輪でのMulti-pass effectの発生有無について車輪走行実験装置を用いて確認し,さらに車輪荷重や車輪回転角速度を変えた際の減少の変化を実験的に考察しています.
この中で特に興味を持った3件目の「新型ISS船内自律飛行型カメラロボット(Int-Ball2)の軌道上実証プラットフォーム活用について」と5件目の「軟弱地盤におけるマルチパス現象に注目した小型車輪の走行特性解析」について詳しくレポートしたいと思います.


3. 「新型ISS船内自律飛行型カメラロボット(Int-Ball2)の軌道上実証プラットフォーム活用について」(JAXA)[3]

ISSでは日々,宇宙飛行士により宇宙環境を利用した科学実験やISS維持のための活動が行われており,これらの作業を地上からサポートするにあたってISS船内に設定されたカメラによる船内の映像は重要な情報の一つとなっています.JAXAではISSにおいて宇宙飛行士のカメラ設置・撮影作業を代替することを目的にInt-Ball2を開発しました(図1).Int-Ball2は地上からのコマンドで指令を受けて撮影ポイントまで移動・姿勢変更を行うことで宇宙飛行士の手を借りることなく撮影を行い,運用終了時には地上からのコマンド指示を受けて,船内に設置された専用充電装置であるドッキングステーションに自動的に停泊することができるそうです.今回の発表では,Int-Ball2が有する技術実証プラットフォーム機能について報告しています.私はこの技術実証プラットフォームに関心を持ちました.Int-Ball2の主となる用途は宇宙飛行士のカメラ設置/撮影作業の代替ですが,もう一つの用途として宇宙環境を利用するユーザに対して実験検証機会を提供する技術実証プラットフォームの機能を有しています.Int-Ball2は機体にユーザのソフトウェアおよびハードウェアを追加する環境があり,例えば無重量環境におけるドローンの飛行制御技術の検証やJEM(日本実験棟)船内環境のセンシングなど,幅広い用途で使用されることが期待されているそうです.そしてこれら技術実証プラットフォーム機能を利用したユーザプログラムは,軌道上の機体で試す前にシミュレータ環境上で動作確認をすることができます.Int-Ball2機体の動作のシミュレーションとしては,プロペラ推力に対する機体のダイナミクス模擬に加えて,カメラなどのセンサ類の模擬と誤差を含む航法値の取得が可能です.これにより,Int-Ball2実機の誘導機能および地上運用支援ツールとInt-Ball2シミュレータを接続することで,地上でInt-Ball2実機の動作を確認することが可能となっています.私は,本研究が宇宙環境利用の分野において非常に重要なものであると感じました.著者らも論文内で述べているように,Int-Ball2を利用することでいままで宇宙環境の利用をしていなかったロボット研究者を含む新たなユーザ層が気軽に宇宙環境を活用できるようになり「きぼう」の利用の促進につながると考えています.

 

図1 Int-Ball2の機体の外観[3]

 


図2 車輪実験装置[5]


4. 「軟弱地盤におけるマルチパス現象に注目した小型車輪の走行特性解析」(慶應義塾大学)[5]

月や惑星は,人間の活動が困難または著しく制限される極限環境であるため,不整地移動ロボットが有用であるとされています.また,輸送時の制約や,エネルギー効率の側面から不整地移動ロボットは小型かつ軽量なものが用いられます.しかし,小型かつ軽量な不整地移動ロボットについては車輪通過が原因の土質変化によって生じる後続車輪の走行性能の変化(Multi-pass effect)について十分に検討されていないという課題が存在します.そこで本研究グループは小型車輪でのMulti-pass effectの発生有無について車輪走行実験装置(図2)を用いて確認し,さらに車輪荷重や車輪回転角速度を変えた際の減少の変化を実験的に考察しています.実験より,車輪重量,車輪回転角速度によるスリップ率の変化から土質の変化が確認され,一定速度内であればスリップ率に変化を出さず並進速度を増加させられることが示唆されていました.これまでの研究には見られなかった,走行回数が増加してもスリップ率が変化しないという 現象も確認されておりとても興味深い結果だと感じました.これに対し筆者らは,この現象について,走行により土質の締固めが起きているということが,近年研究されているRFT (Resitive Force Theory)の観点からも示されたと述べています.私は,本研究が月や惑星における不整地移動ロボット利用の未来に大きく貢献するものであると感じました.今後の進展に期待しています.


5. おわりに

以上,「2G2宇宙ロボティクス(2/2)」のセッションレポートでした.最先端の技術を応用したロボットの事例をたくさん知ることができ,とても貴重な経験になりました.どの研究も今後の展望に期待しています.


参考文献

[1] 谷嶋信貴,岡本博之,奥村哲平,渡邊恵佑:“デブリ除去捕獲機構HKKの捕獲時におけるターゲット引き込み手法の検討”,第41回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2G2-01,2023.
[2] 上野浩史,市川千秋,臼井基文,白澤洋次:“軌道上衛星の機能再生を目指したロボティクスによるモジュール取付サービスの構想検討”,第41回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2G2-02,2023.
[3] 山本竜也,山口正光ピヨトル,渡辺英幸,板倉理一,和田勝,稲垣哲哉:“新型ISS船内自律飛行型カメラロボット(Int-Ball2)の軌道上実証プラットフォーム活用について”,第41回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2G2-03,2023.
[4] 保木口成寅,石上玄也:“不整地移動ロボットのスリップによる経路逸脱を考慮した 追従制御則の構築”,第41回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2G2-04,2023.
[5] 後藤優輝,石上玄也:“軟弱地盤におけるマルチパス現象に注目した小型車輪の走行特性解析”,第41回日本ロボット学会学術講演会予稿集,2G2-05,2023.


鵜澤匠吾 (Shogo Uzawa)

2022年中央大学理工学部精密機械工学科卒業.現在は中央大学大学院理工学研究科精密工学専攻,博士前期課程在籍.蠕動運動型ポンプを用いた宇宙トイレの研究開発に従事.日本ロボット学会学生編集委員.