「ゲームAIの意思決定とロボット」特集について
日本ロボット学会誌43巻2号「ゲームAIの意思決定とロボット」
【解説】
- デジタルゲームにおける意思決定アーキテクチャ(三宅 陽一郎)
- ゲームキャラクターの「心」としてのAI―ゲームAI の意思決定技術―(森川 幸人)
- ビデオゲームに見るリアルタイム環境下で目的を遂行するエージェントとは(長谷 洋平)
- デジタルゲームにおける意思決定アルゴリズム(三宅 陽一郎)
- チームワークAI における意思決定(渡辺 大地)
- ロボットの意思決定に対する動作計画アプローチ(原田 研介)
- 人を理解し共に意思決定する卓球ロボットFORPHEUS(水山 遼・金森 祥太)
- コンテキスト指向プログラミングによるAI ロボットの実行時振る舞い変更(渡辺 晴美)
- 産業用ロボットとビヘイビアツリー(橘高 達也)
本特集では,「意思決定」,すなわち「与えられたタスクや環境の状態に対し,可能な行動の中から最良のものを選択する技術」に焦点を当てました.
労働力不足や市場のニーズの流動化に伴い,物流,農業,食品,小売業をはじめとする,従来はロボットによる自動化が困難だった領域へのロボット活用の重要性は増しています.
強化学習をはじめとする近年の機械学習技術の目覚ましい発展により,ロボットで実行可能な作業の種類は増えつつありますが,変化が予測できない現場で真に活用できるロボットシステムのためには,単一の作業をこなせるだけでなく,複数の作業を順序良く組み合わせて実行したり,環境の変化や作業指示の変更にも臨機応変に対応して作業を切り替えること,すなわち意思決定の技術が重要であると考えます.
意思決定の技術が,ロボティクスに先駆けて発展した分野があります.それはゲームAIです.
時々刻々と変化するゲーム内環境で,味方や敵のキャラクター達が即座に,しかも賢く行動を選択し,私たちを楽しませることができている背景には,独自の技術があります.
例えば,「ビヘイビアツリー」という手法は,ロボティクスで典型的に用いられる状態ベースの意思決定手法と対照的な技術であり,木構造でプログラムを記述することで,環境変化への応答性やプログラムの再利用性に優れ,全体像の把握も容易であるといった利点を持ちます.
近年ではBoston Dynamicsの4足歩行ロボットSpotや,Sonyのペットロボットaiboのプログラムがビヘイビアツリーで記述されるなど,ロボティクスにも取り入れられつつありますが,まだその活用は限定的です.
本特集では,ゲームAIおよびロボティクスにおける意思決定技術の解説,そしてそれらを組み合わせた研究事例を集めてみました.
最後に,ご執筆いただいた皆様,本特集にご協力いただいた編集委員や日本ロボット学会事務局の皆様に,この場を借りて厚く感謝申し上げます.
(橘高達也 安川電機)