「学術系クラウドファンディングを活用したロボットの研究・開発」特集について
日本ロボット学会誌43巻4号「学術系クラウドファンディングを活用したロボットの研究・開発」
【解説】
- 学術系クラウドファンディングが拓く研究の未来(柴藤 亮介)
- クラウドファンディングを通じた科学研究支援の動機:研究者への示唆(吉岡(小林) 徹)
【事例紹介】
- 人里を巡回する「動物型ロボットかかし」開発(齋藤 敬)
- 多様な子どもの主体性を引き出すなんもしないロボットの可能性(吉村 優子・高橋 英之)
- 人とロボットが一緒に暮らす未来の空間創り(水谷 彰伸・伊東 啓太郎・石塚 直登・須藤 朋美・田中 啓文・田中 悠一朗・田向 権)
- 国際競技大会サイバスロンへの参加資金の調達(中嶋 秀朗)
- 人と人,人と社会を繋ぐクラウドファンディング(中川 聡)
- スポーツ義足民主化のためのクラウドファンディング活用事例(遠藤 謙・佐藤 圭太)
- クラウドファンディングからマンスリーサポーターへ(倉島 治)
クラウドファンディング(crowdfunding)は,群集(crowd)と資金調達(funding)の合成語で,多数の人・組織から資金を調達することを意味します.クラウドファンディングはインターネットの登場前から存在する形態ですが,インターネットの社会への浸透とともに身近で洗練されたものになってきました.現在では学術的用途にも活用され,これは学術系クラウドファンディングとよばれます.
クラウドファンディングには二つの面が見られます.一つは資金獲得,もう一つは社会ネットワークの形成です.
現在,多くの大学等研究組織では,組織単位や研究者単位で資金獲得に悩む局面が多々存在するように思えます.実際に,国立大学の学費値上げや,各種学術団体からの科研費等研究費の増額要望など,資金問題に関するニュースを耳にすることが増えてきました.一方で,学術系クラウドファンディングを利用することで資金獲得等の問題を解決した例も,数多く見られるようになってきています.
学術系クラウドファンディングが科研費等の従来の研究資金獲得と大きく異なる点は,資金獲得活動そのものが社会ネットワークの形成に直結することです.近年の研究活動においては,単に研究成果を得るのみでなく,研究成果を社会へ伝えるアウトリーチ活動も重要とされています.従来の研究資金の獲得活動においては,資金獲得活動とアウトリーチ活動は別個のものですが,学術系クラウドファンディングでは,これらは一連の活動として連続しています.
学術系クラウドファンディングは現在のところ,幸か不幸か,ロボット研究者の資金獲得としては主流の方法ではありません.本特集号は,学術系クラウドファンディングの仕組みや事例を紹介することで,ロボット研究者・組織の資金獲得・アウトリーチの可能性を広げるとともに,円滑な研究・開発活動を支援することを目的としています.この特集が,みなさまの研究活動・組織運営の活性化の参考になれば幸いです.
最後に,ご多用の中,記事をご寄稿いただいた執筆者のみなさま,本特集号の実現にご協力いただいた日本ロボット学会誌編集委員・事務局のみなさまに心より感謝申し上げます.特に本特集号においては,日本ロボット学会とは縁遠い方々からもご寄稿いただきました.厚く御礼申し上げます.(岩谷 靖 近畿大学)