「ロボティクス研究・開発のためのソフトウェアツール」特集について
日本ロボット学会誌43巻5号「ロボティクス研究・開発のためのソフトウェアツール」
【展望】
- 知能ロボットのソフトウェアシステムの広がり(岡田 慧)
【解説】
- ロボットミドルウェアの動向と今後の展望―システムインテグレーションの観点から―(安藤 慶昭・宮本 信彦)
- ROS 2 の現在地と未来(近藤 豊)
- 統合ロボットシミュレータChoreonoid―開発経緯と利用事例にみる活用の可能性―(中岡 慎一郎)
- Python で始めるロボット開発―Scikit-robot によるロボットプログラミング入門(矢野倉 伊織)
- ロボット開発用言語としてのRust とオープンソースプロジェクト:OpenRR(小倉 崇・内山 活)
- 通信ミドルウェアZenoh とROS 2 への対応(高瀬 英希)
- Open-RMF による自律移動ロボットの相互運用性の実現(グエン ジュイヒン)
- 剛体系運動学・動力学計算ライブラリPinocchio の紹介(片山 想太郎)
- NVIDIA のPhysical AI・ロボティクスへの取り組み(加瀬 敬唯)
- UnrealEngine を用いたロボティクスシミュレータの開発(岡本 悠)
ロボットシステムを開発するにあたり,システムを構成するモジュールの再利用性や開発環境の整備,そしてこれを支えるソフトウェアツールの重要性は疑念の余地がない.本会誌でも「ロボティクス研究のためのソフトウェアツールI/II」として2012年および2013年に,特にROS(Robot Operating System)に関しては2017年に特集記事を掲載した.
しかしながら,当時から約10年が経過し,ロボティクス研究を取り巻くソフトウェアツールも大きく変化している.現在も代表的なロボティクス向けミドルウェアの一つであるRT-MiddlewareやROSは当時から存在するが,通信スタックを含め多くが刷新されたROS2の普及など,目まぐるしい変化があった.また近年では,これらミドルウェアの採用・対応をうたったロボット製品・プロダクトや,RT-MiddlewareやROS/ROS2との連携を意識した各種ソフトウェアツールを広く目にするようになった.
さらに,より安全性の高い実装が可能なプログラミング言語であるRustの登場により,ロボティクス開発の新たな可能性が広がっている.近年ではRustにより通信ミドルウェアやロボット向けソフトウェアプラットフォームを新たに開発する取り組みが行われている.また,ゲームエンジンのロボティクス開発への応用も進んでおり,リアルタイムシミュレーションや視覚化技術の向上に寄与している.
加えて,GPU並列化による高速かつフォトリアリスティックな動力学シミュレーション環境の進化も注目に値する.これにより,機械学習への利用が一層進展し,ロボティクス研究におけるシミュレーションの精度と速度が大幅に向上している.さらに,ロボットの運動学や動力学演算をサポートするライブラリも進化を遂げている.
以上を踏まえ,本特集では,2024年現在のロボティクス研究・開発を取り巻くソフトウェアツールに関する解説および研究・開発の事例を集めた.これにより,読者が最新の技術動向を把握し,今後の研究・開発に役立てることを期待する.
(笠井栄良 ソニーグループ)