
「高齢者介護ロボットの開発と現場適応」特集について
日本ロボット学会誌43巻10号「高齢者介護ロボットの開発と現場適応」
【展望】
- 介護ロボットの開発・社会実装の展望(柴田 智広)
【解説】
- J-PAS fleairy ® の介護施設での活用評価―アンケートに基づく長期間・多台数導入時の習熟と効果の分析―(樋口 藍・南雲 考司・吉見 孔孝・鴻上 図南・藤田 亘・柴田 智広)
- 移乗サポートロボットHug と利用者ADL 向上の可能性(小川 朋子)
- 「介護テクノロジー」の重点分野「認知症生活支援・認知症ケア支援」の「選定機器」アザラシ型ロボット「パロ」の効果のエビデンスと社会実装(柴田 崇徳)
- ユマニチュードにおける認知症ケア:介護スキルの定量的可視化と熟練者の特徴抽出(安 琪・倉爪 亮)
- 介護領域におけるロボット関連の動向について(梶谷 勇)
- 介護現場の伴走支援を通じて明らかになった介護ロボット導入の課題と成功要因(宮本 隆史)
日本では少子高齢化が年々深刻さを増しており,社会構造そのものにも大きな影響が及びつつある.生産年齢人口の減少によりあらゆる分野で人手不足が顕在化しており,高齢者人口の増加に伴ってニーズが拡大する高齢者介護の現場もまた例外ではない.こうした状況を受け,外国人労働者の受け入れ拡大などによって労働供給を補填する施策も進められているが,必要とされる対策は担い手の量的な不足への対応だけにとどまらない.介護の質の維持と向上,健康寿命の延伸や介護予防の重要性という観点からも新たなアプローチが求められている中,有効な解決策の一つとして期待されているのが,ロボット技術を中心とするロボティクス分野からの貢献である.
ICTを利用した見守り機器やセンサシステムなどは比較的導入が進み,成果も報告されている,一方で,実際に介護現場で身体的な支援を行う「介護ロボット」の普及は必ずしも順調とはいえず,安全性や信頼性,コスト,運用体制,現場ニーズとの適合性といった多くの課題が依然として残されている.介護ロボットの導入が本格的に広がるためには,技術的改良,制度面での支援,現場の実態に根差した取り組みなど,多角的な取り組みが求められるだろう.
以上の背景を踏まえ,本特集号は,介護分野の課題解決に向けてロボット技術がいかにして貢献し得るのかについて理解を深めることを目的として企画した.「介護ロボットに関する最新技術の動向」「現時点で実際に導入されている事例の紹介とその評価」「普及を進めるために足りない要素や,今後の開発に求められる視点」などのテーマを取り上げ,当該分野の第一線で研究・開発・実装に携わる専門家の先生方に多角的に論考をいただいた.本特集号が,介護ロボットの将来像を考えるうえで有益な示唆をもたらし,今後の技術発展と社会実装に向けた議論を一層促進する契機となることを期待したい.
最後に,ご多忙の中ご執筆いただいた著者先生方,本特集にご協力いただいた編集委員ならびに日本ロボット学会事務局の方々に深く感謝申し上げる.(濱崎峻資 中央大学)


