1. はじめに
2023年9月11日(月)から14日(木)に開催された日本ロボット学会第41回学術講演会のセッションレポートをお届けする.
2. 本文
今回レポートするのは,1日目に開催された「2050年からバックキャストした健康・医療技術:生体内サイバネティック・アバター」である. このセッションは,新井史人氏(東京大学)の「生体内サイバネティック・アバターによる健康・医療技術の革新」から始まり,生体内サイバネティック・アバター(以下,生体内CA)の課題と目標,消化器系への応用,生体内CAのロードマップなどが発表された. 生体内CAは体内で動作し,情報取得や薬剤の局所投与を行う技術であり,未来の医療に革新をもたらすと期待されている.
続いて,6件の発表が行われた.
1件目は,芳賀洋一氏(東北大学)による「微細加工技術で切り拓く生体内サイバネティック・アバターの未来」である. 従来のESD手法の課題を指摘した上で,解決策や生体内CAの未来像が示された.
2件目は,新津葵一氏(京都大学)による「半導体集積回路と生命医科学における進化の協奏が織り成す生体内サイバネティック・アバター」である. 半導体技術と生命医科学の融合による医療革新が語られ,新たな研究分野や産業創出への展望が示された.
3件目は,安在大祐氏(名古屋工業大学)による「位置計測技術を用いた生体内サイバネティックアバターの展望」である. 無線通信電波を利用した体内位置計測技術が紹介された.
4件目は,森健策氏(名古屋大学)による「生体内CAのための体内時空間環境情報再構築と信頼されるAI」である. 体内環境の仮想空間再構築や生体内CAとAI(大規模言語モデルなど)の融合について展望が語られた.
5件目は,藤城光弘氏(東京大学)による「生体内サイバネティック・アバターで見る夢 ~医師の立場から~」である. 生体内CAの医療応用の可能性や臨床現場での活用法が示された.
6件目は,吉田慎哉氏(芝浦工業大学)による「飲んで健康状態を知るカプセル型生体内サイバネティックアバター」である. カプセル型生体内CAによる健康モニタリング技術とその応用可能性が示された.
セッション全体では,生体内CAの多様な研究や技術進展が強調された. 各発表者が異なる視点でアプローチすることで,技術の多様性と将来性が浮き彫りになった. 臨床応用に向けた課題や具体的な事例も議論され,技術的なブレークスルーや規制整備,倫理的課題の解決が重要であると再確認された.
加えて,基礎研究から応用研究までの連携強化も議題に上った. 実際に体内環境で長期間にわたり動作できる耐久性や,患者の身体へ与える負担の最小化が,今後さらに注力すべきポイントといえる. 将来的には,個人ごとの遺伝子情報や生活習慣,既往症を踏まえた完全なカスタマイズ型医療が実現する可能性があると考えられ,生体内CAの発展と密接に連携していくことが期待される.
3. おわりに
以上,「2050年からバックキャストした健康・医療技術:生体内サイバネティック・アバター」のセッションレポートをまとめた. 「生体内サイバネティック・アバター」は,初めはどのような技術か想像がつかなかったが,詳細な説明を通じてその可能性と未来像を理解することができた. この技術が実現すれば,治療法の大幅な進歩となり,患者の負担が軽減されると期待できる.
私自身,忙しさから病院に行けないことが多いため,本技術の実用化が待ち遠しいと感じる. 生体内CAが普及すれば,健康状態をリアルタイムでモニタリングでき,早期発見や早期治療が可能となる. 新しい医療のカタチとして,病気の予防と回復をよりシームレスに結びつける仕組みが整うことだろう.
さらに,社会全体の医療リテラシーを高める観点でも,生体内CAが人々の健康意識に与える影響は大きいと考えられる. 体内情報の可視化や共有が進むと,人々が自らの身体変化を能動的に捉え,セルフケアに取り組むきっかけにもつながりうる.
総じて,医療技術の未来に対する期待がいっそう高まった. 生体内CAの実用化が私たちの生活にどのような変革をもたらすのか,今から楽しみである. この分野の研究動向を今後も注視していきたい. 本レポートが,生体内サイバネティック・アバター技術の魅力と可能性を伝える一助となれば幸いである.
蒲生 由紀子 (Yukiko Gamo)
2010年大阪大学外国語学部卒業.ITエンジニアとして働きつつ,2022年より北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程.現在に至る.プログラミング学習支援のためのインタラクティブシステムの開発に取り組み,エラー駆動学習や対話型エージェントを活用した教育手法の研究を行っている. 研究成果を生かし,学習者が“試行錯誤しながら楽しみつつ学べる”環境づくりを目指している.