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第41回日本ロボット学会学術講演会レポート(OF8:人と共に進化するAIとロボット技術)


1 はじめに

本記事では.2023年9月11日に開催された日本ロボット学会学術講演会におけるオープンフォーラムの企画の1つである「人と共に進化するAIとロボット技術」についてまとめて紹介を行う.

本企画の主催は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)であり,オーガナイザーは長井 隆行先生(大阪大学),阿部 香澄先生(電気通信大学),奥 温子先生(株式会社ChiCaRo),森本 淳先生(国際電気通信基礎技術研究所(ATR)),稲邑 哲也先生(玉川大学),芝田 兆史先生(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)),割田 和義先生(NEDO),諏訪 勝重先生(NEDO),秋間 雄太先生(NEDO)であった.

発表テーマは3点あり,1. ロボットとAI技術の育児・発達支援への応用(大阪大学,電気通信大学,(株)ChiCaRo),2. サイボーグAIの研究開発((株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)),3. 人とロボットの協働環境を支えるVRデジタルツイン(玉川大学)の順に本稿でも紹介を行っていく.


2 NEDO 共進化プロジェクトの概要

はじめに.本企画の紹介のために,NEDOの共進化プロジェクトについて紹介する. NEDOの人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業は2020年度 2024年度の5年事業であり,2023年開催のオープンフォーラム時点で4年目を迎えた. 共進化プロジェクトは「人とAIを友にする」ことを目標とし,研究開発項目として「⼈と共に進化するAIシステムの基盤技術開発」,「実世界で信頼できるAIの評価・管理⼿法の確⽴」,「容易に構築・導⼊できるAI の開発」の3つを柱に進めている. 本企画では,共進化プロジェクトから3つの研究紹介とパネルディスカッションを行った.


3 ロボットとAI技術の育児・発達支援への応用

最初の発表として,長井 隆行先生(大阪大学),阿部 香澄先生(電気通信大学),奥 温子先生(株式会社ChiCaRo)から育児や発達支援へのロボット・AIの応用が紹介された. 本研究の背景として,人とのインタラクションにおける自律AIの実現や自律的なAI(ロボット)が有するべき説明性(信頼性)が技術としての課題であった. また,応用としての課題もあり,これらの技術を子どもの養育(発達)支援に応用は社会的課題の解決に貢献が期待される.

そこで,彼らは「発達が気になる親子を支援する環境調整型発達支援システム」を考案し,”楽しく遊びながら日々子どもの成長を促して見守り、親の子どもの発達における不安を和らげる”ことを目的とした. この支援システムでは,子どもの発達を気にする親のために,親に寄り添い子どもへの不安を軽減しつつ,子どもへの発達支援としてロボットやAIを利用し,日常的に楽しく子どもの発達を促すことを目的にしている. 本システムには,人による支援とシステムによる支援の両方の働きが重要になり,相互のインタラクションによって様々な機関と連携することで子どもと子どもに関わる人たちにとってより良い”環境づくり”を行う.

日常的に楽しく子どもの発達を促す「促育遊び」の実験を乳幼児特化型アバターロボットChiCaRoを利用して行った. 発達項目と好みに応じた150種以上の促育遊びを用意し,関心・好みに応じた促育遊びの選定AIを導入している. 本記事の詳細な発表も含めて,サンプル動画やデモンストレーションに関心がある方はYoutubeを視聴していただきたい.[1]


4 サイボーグAIの研究開発

次の発表として,森本 淳先生(ATR)からサイボーグAIについての研究開発の紹介がされた. サイボーグAIの目指す領域は人工知能技術とロボティクス技術の両方を高めていくことが望ましい. 本プロジェクトの概要として,1. プラットフォーム(ハイブリッドアクチュエーション,筋シナジー利用による階層的予測制御),2. アルゴリズム(人間技能の転移,Human-in-the-loop,セグメンテーション),3. 共進化の応用(空間認識の可視化,人間-AIコラボによるアート),4. 機械学習の数理(低次元化したセグメントレベルでの予測・制御)を合わせることでサイボーグAI環境を設計していく.

本発表では,特にプラットフォームについての研究を紹介しており,プラットフォーム・環境の開発のために,サイバー環境でシミュレーションを行い,実環境での実験を可能にするための開発を行った. また,ヒトの小さい時定数での制御メカニズムの解析とロボットへの応用を目的とした人間の運動解析を行った. 従来の二足歩行制御のアプローチから実システムとの誤差を少なくするための取り得るアプローチを考案し,特異摂動法を⽤いて導き出されるヒューマノイドロボットモデルの時間的階層性に着⽬した.

本発表の詳細な研究紹介や関連研究の紹介も含めた本プロジェクトについての発表内容や,サイボーグAIについて関心がある方はYoutubeを視聴していただきたい.[2]


5 人とロボットの協働環境を支えるVRデジタルツイン

最後の発表として,稲邑 哲也先生(玉川大学)から,将来的に人とロボットの協働環境を支えるVRデジタルツインについての研究紹介がされた. 本研究の背景として,人とロボットが共同作業をする中で,人の行動・ロボットの行動の双方が共進化していくためのフレームワーク構築が人-ロボットの社会共存において重要な課題になっている. 近年のロボット行動学習のトレンドは予測に基づく学習(ワールドモデル,モデルベースト強化学習,深層強化学習,深層予測学習)やマルチモーダル基盤モデル(LLM,CLIP,PaLM-E, RT-1, RT-2, Gato,3D-LLM)であるが,人とロボット間のインタラクション データを収集するコストや人の行動データの不確実性の大きさが原因で,人・ユーザの行動に関するデータモデルがほとんど対象となっていない.

そこで,人とロボットの協働のためのワールドモデルを考案した. 現状の課題として,ロボットが獲得したワールドモデルを人が理解できるとは限らないことや人の行動をワールドモデルで表現/学習する事例は皆無であること,人の行動とロボットの行動を同時に表現するワールドモデルはさらに複雑で困難であるため,実環境での空間・もの・ひとの計測技術と仮想空間での精緻な人モデルに基づく人の行動再現を統合したデジタルツインの設計を目指す.

ロボットシミュレータをデジタルツインとしたヒューマンロボットインタラクション(HRI)では,人もロボットも同時に考慮しているDigital Twin空間は存在していない. そこで,この課題の解決アプローチとして,VR/ARによるデジタルツイン環境へのリアルタイム介入を行った. 今後の人を含めたデジタルツインの応用例として,1. 生産ラインでの人とロボットの共同作業の効率化,2. 雑踏環境下での歩行者行動モデルとロボットの自律行動生成,3. VR+デジタルツインによる小売店舗環境のモデル化,4. コロナ禍へ対応:人とロボットの対話行動競技会のオンライン化の4つを想定している.

人とロボットの協働環境について関心を持たれた方や本研究紹介の詳細をご覧になりたい方はYoutubeを視聴していただきたい.[3]


6 まとめ

本企画は本記事で紹介した3つの研究紹介に加えて,パネルディスカッションとして「人とロボットが共進化する未来」について,長井 隆行先生(大阪大学),森本 淳先生(ATR),稲邑 哲也先生(玉川大学),芝田 兆史先生(NEDO,司会)による議論が行われた. 本記事では,パネルディスカッションについての詳細な情報は提供できないため,本記事からロボット学会のオープンフォーラムに興味を持たれた方は,今後のロボット学会学術講演会への参加や聴講を勧める.

近年,ChatGPTや産業ロボットの社会利用が増加し,人間とロボット・AIとの今後の関係性については深く議論する必要が出てきている. ロボット・AIに対する倫理についての問題や使用制限など,国際的な話題になっている中で,人と共に進化するロボット・AI技術が人に寄り添った”友”のような関係を築くことができるような取り組みは,将来の人間社会の基盤となりえる研究であり,今後の発展に関心を持つ多くの研究者によっていくつもの答えが出るだろう.

筆者も人とロボット・AIの社会共存を目指す研究者として,本プロジェクトの重要性を再確認し,本企画が多方面への関心を広げることを確信するとともに,本記事を読まれた方の中から,日常で当たり前のように我々が利用しているロボット・AI技術との関係性に疑問を持ち,同じような志を持った方々と共に,社会に技術や価値観を広めることができることを願う.


参考文献

[1] https://youtu.be/wO2TZU6yieA?si=t_Lwz6U7Pa7rQbEs,(最終閲覧日 2024-10-24)

[2] https://youtu.be/8nLZNxp_zq0?si=-rwL3BQlm3uINAIN,(最終閲覧日 2024-10-24)

[3] https://youtu.be/3i8iYcJLJ30?si=puFfHeCJvJu9H3pq,(最終閲覧日 2024-10-24)


津村賢宏 (Takahiro Tsumura)

2024年総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻.博士課程修了.博士(情報学).2024年より東洋大学情報連携学部情報連携学科助教.人とAI・ロボット間の共感や信頼について研究.AI社会哲学者.