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日本ロボット学会誌44巻7号「未来の食とロボットⅠ」


 

「未来の食とロボットⅠ」特集について

 日本ロボット学会誌44巻7号「未来の食とロボットⅠ」

 

【解説】

  • 嚥下動作を再現する等倍ロボット(陳 禹寧・橋本 卓弥・道脇 幸博・小林 宏)
  • ロボットを食べる(仲田 佳弘・山縣 芽生・高橋 英之)
  • 味覚メディアによる食体験の再構築―味覚・嗅覚・食感・栄養を記録・編集・再生する―(宮下 芳明)
  • 食卓にロボットが座るとき:共食場面における共在と対話の心理的影響(山本 哲也・香西 裕太)
  • 蠕動運動で食品を混ぜて,運んで,発酵させる!―腸管運動に学ぶ革新的な食品プロセス技術―(中村 太郎)
  • 味覚の計測・提示技術とロボティクスへの展開(田原 祐助) 

 食は,人間の生命を支える最も基本的な営みであると同時に,楽しさ,文化,健康,コミュニケーションと深く結びついた豊かな体験でもある.近年,少子高齢化の進展,介護・医療現場における食支援の重要性,個人の嗜好や健康状態に応じた食の提供,さらには食品工学や情報技術の発展を背景として,「食」と「ロボット」の関係は大きく広がりつつある.従来,ロボットは食品の製造や搬送,調理作業の自動化に用いられることが多かった.しかし現在では,咀嚼や嚥下といった人間の身体機能の理解と再現,味覚や視覚を通じた食体験の拡張,さらには発酵や調理といった食品生成プロセスへの関与など,より人間に近い領域へと研究対象が広がっている.

 本特集「未来の食とロボットⅠ」では,食事を単なる栄養摂取としてではなく,人間の感覚,身体,心理,社会性を含む総合的な体験として捉え,その未来像をロボット技術の観点から考える.まず,嚥下動作を再現するロボットの研究は,高齢者や嚥下障害者への支援技術,食品評価,医療・介護分野への応用に向けて重要な基盤となる.また,空気圧駆動を用いた可食ロボットや,食べられる材料で構成される柔らかなアクチュエータは,ロボットそのものを「食べる」対象へと拡張する新しい試みである.さらに,味覚メディア,味ディスプレイ,味計測センサといった技術は,味を記録し,提示し,変化させることで,食体験の個別化や遠隔共有の可能性を開く.加えて,ロボットによる発酵食品の製造や,ロボットとの共食に関する研究は,食品を作る過程や食卓における人間とロボットの関係性を再考する契機となる.
 本号では,嚥下ロボット,可食ロボット,味覚メディア,味計測,共食,発酵食品製造といった多様な研究を取り上げる.これらは一見異なる分野に見えるが,いずれも「人はどのように食べ,どのように味わい,どのように食を楽しむのか」という根源的な問いに向き合うものである.本特集が,ロボット工学,食品工学,感性工学,医療・福祉工学などの分野を横断し,未来の自然な食事のあり方を考えるきっかけとなれば幸いである.
(伊藤文臣 中央大学)