前回のみのつぶ短信第40回のICRA2026の概報で述べたように,今回,ウィーンへの二回の渡航の理由は,その間に,浅田が副理事長を務めている日本赤ちゃん学会の第26回学術集会[1]が2026年6月5日から7日まで,長岡市のハイブ長岡で開催されたからです.6月4日の夕刻,ウィーンを発ち,フランクフルト経由で羽田に到着したのが,翌5日の夕刻で,その日は羽田で宿泊し,6日の早朝,長岡市に向かいました.
赤ちゃん学会に関しては,2019年12月11日に掲載された,みのつぶ短信第8回「小西先生,ちょっと早いんじゃないですか?[1]」で説明していますが,再度,簡単に紹介しましょう.そのまま,引用すると,
『赤ちゃん学会の衝撃はなんといっても,一般の方々もふくめて,多様な分野の研究者が集い,まさに学際的であると同時に,一般社会との繋がりも感じさせるものでした.それは,通常の学会が表向きOpen to publicと称しつつ,結局専門家しか集まらないことが典型であったからです.これは,「赤ちゃん学」という平易な言葉のなかに,多様性や一般社会とのつながりを彷彿とさせる語感のなせる技で,初代理事長の小林登先生の偉業です.小西先生に言わせると「異種格闘技戦」ということで,まさに,前途多難な船出であったと記憶しています.』
です.通常の学術用語で言えば,乳幼児発達学会で,対応する国際的な学会の名は,International Congress of Infant Studiesです.実際に数回,参加しましたが,米国シカゴで開催されたときは8割から9割が発達心理学の研究者で,日本の赤ちゃん学会ほど学際的ではありませんでした.その意味で,赤ちゃん学のネーミングは素晴らしいです.「ロボット学」も「ロボット」がもともと学術用語ではなかったことを思えば,一般大衆に受け入れられやすいネーミングなので,もっともっと学際的にならないといけませんね.さらに,昨今の最新AIも含めて,技術の大躍進による社会進出が甚だしいので,多様な分野の方々と,より広く,深く議論し,実践していくことが可能な学会にしていかないといけません.
さて,本題に戻りましょう.長岡駅前からバスで会場にたどり着いたのが10:30過ぎで,最初の大会企画シンポジウム1「赤ちゃん・子どもとのコミュニケーションの未来」に出ようと思ったら,会場が狭く,入れず,最初の講演を聞き逃してしまいましたが,概要は以下です.本シンポジウムでは,乳幼児の成長を支える新たなコミュニケーション環境について,絵本,音楽,地域コミュニティの視点から議論が行われました.小林哲生氏は,AIによる絵本推薦やパーソナル知育絵本を活用し,デジタル技術によって絵本との出会いを支援する取り組みを紹介しました.金箱淳一氏は,音を振動や光に変換する「共遊楽器」を通じて,聴覚の有無を超えた共体験の可能性を示しました.松本理寿輝氏は,「まちぐるみの保育」の実践を紹介し,子どもが地域社会に参画しながら学び育つ環境づくりの重要性を論じました.全体として,テクノロジーや地域資源を活用しながら,人と人とのつながりや共体験を豊かにすることが,これからの子どものコミュニケーション環境の鍵であることが示されました.
午後からの基調講演は,浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター・教授である千住淳氏による「多様な子どもたちの育ちを理解する」と題するものでした.先住さんとは,かなり古くからの知り合いで,けいはんなの研究会や学会でいろいろ議論してきた仲間でもあります.約20年間,ロンドン大学バークベックカレッジでの教職をへて2021年から現職です.当時から,発達障害の研究で著名で,今回,科研の学術変革「共在」の代表としての講演でした.千住さんは,子どもの発達の個人差を「個性」と「障害」の二項対立ではなく,多様性として理解する視点の重要性を提起し,特に社会性の発達を例に,自閉スペクトラム症を含む発達の多様性が生じる背景や当事者の主観的経験に関する研究成果を紹介されました.さらに,発達特性そのものだけでなく,それが社会規範や制度との相互作用の中で「障害」として現れることを指摘し,多様性を前提とした新たな子ども理解と支援の枠組みの必要性を論じられました.子どもの発達を連続的な多様性として捉える視点の重要性が強調された印象です.
続いて,一般公開シンポジウムです.これも千住さんが代表のJST未来社会創造事業「個人に最適化された社会の実現」の公開キックオフシンポジウムでした.講演では、子どもの育ちやウェルビーイングを見守り支援するデータ活用技術「WeBB」が紹介されました.AIによる動画解析,ウェアラブル・IoTを用いた感情や状態の推定,五歳児健診や学校現場での継続的データ活用などを通じて,子どもの「声なき声」を可視化し、一人ひとりに最適化された支援へつなげる構想が示されました.全体として,AIとデータサイエンスを活用しながら,乳幼児期から学齢期まで切れ目なく子どもの個性とウェルビーイングを支える新たな社会基盤の構築が提案されました.指定討論者の長岡市教育委員会子ども未来部 こども家庭センターの込山智美所長から,長岡市の「切れ目のない発達支援」の取り組みが紹介されました.教育委員会の下に母子保健・福祉・保育・教育を一体化した全国でも珍しい体制を構築し,多職種連携による「オール長岡」の支援を推進しています[スライド参照].妊娠期から学齢期までの継続支援,園・学校へのアウトリーチ,情報共有ツール「すこやかファイル」などを通じて,子ども一人ひとりに寄り添う支援体制を整備しています.一方で,支援効果の可視化,人材不足,保護者との合意形成が今後の課題として示されました.
このあと懇親会を通じて,長岡市の取り組みをJST未来社会創造事業としても参考になることや,赤ちゃん学会としても,支援の可能性について検討しました.翌日も学会は続くのですが,7日の朝,次のウィーン出張準備で,新潟空港から帰阪しました.次は,ARSO2026です.昨年は,大阪で浅田が実行委員長を務めた学会です[3].
[1] https://jsbs.gr.jp/jsbs2026/
[2] https://robogaku.jp/news/2019/pblog008.html
[3] https://robogaku.jp/news/2025/pblog039.html

浅田稔
元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授


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