昨年のロボカップブラジル大会,RoboCup 2025[1]は、大阪で開催したARSO国際会議と重なり[2]、参加できませんでした。実は、過去のロボカップ国際大会で昨年を含め事情で2回参加できなかったのがいずれもブラジル大会で、ブラジルのロボカップメンバーには申し訳ない思いです。
1. 概要
さて、今年の国際大会RoboCup2026は韓国仁川で7月2日から、7月6日まで開催されました[3]。仁川は国際空港で有名ですが、正確には、仁川広域市と呼ぶようで[4]、現在、人口300万人のソウル、釜山に次いで韓国で3番目の都市とのことです。てっきり、空港の近くに会場があるかと思ったのですが、到着の第二ターミナルからは第一ターミナル(そこまで20分)を経て、市内まで約一時間のリムジンバスで市内到着でした。ホテルから会場は徒歩10分強で、便利でした。会場は英語名ではSongdo ConvensiA[5]で、日本語名では松島コンベンシアで、いわゆるコンベンションセンターですね。第一ホールから第4ホールまでをぶち抜いた巨大なエリアは総計約1万7千平米のど迫力でした[写真1~9]。企業展示ブースも充実しており、ロボカップスポンサーのマスワークスの展示ブースなどもありました[写真10,11]。
2. 参加チームと参加者数
グラフ1に今年を含めた過去30年の参加チーム数の推移を示します。大学院生中心のメジャーリーグ167チーム、小学生高学年から高校までのジュニアリーグが158チームの合計325チームで、昨年のブラジルが各国から遠いこともあって、若干少なかったですが、今年はほぼ例年通りのチーム数となりました。グラフ1では、過去との比較で、カテゴリーをそのままにしていますが、各部門、各リーグで変更・更新があります。そのことについては、次のリーグ構成で説明します。ロボカップでは、オリンピックやワールドカップのような国別対抗ではなく、競技会を通じた協働や連携を推進しているので、国別データをあまり出していませんでした。全世界46の国と地域から、総勢3千名弱の参加者が集う大会となりました。グラフ2は国別の参加者数ですが、ベスト10は以下でした。中国が1位で、ついてドイツ、韓国、日本、メキシコ、ブラジルと続きます。ここでも中国パワーがすごい勢いです。
| 順位 | Region | Members |
| 1 | China | 261 |
| 2 | Germany | 230 |
| 3 | Republic of Korea | 208 |
| 4 | Japan | 202 |
| 5 | Mexico | 123 |
| 6 | Brazil | 116 |
| 7 | USA | 84 |
| 7 | Australia | 84 |
| 9 | Thailand | 79 |
| 10 | Canada | 63 |
3. リーグ構成
最大の変更は、ヒューマノイドリーグです。ご存知のように中国のプラットフォームメーカーであるUnitree社やBooster社の機体が利用可能で、ロボカップ参加割引もあって、各チームとも複数台の機体を購入して、参戦しています。これらの影響もあって、従来のキッドサイズ、アダルトサイズの旧ヒューマノイドリーグとNAOによるスタンダードプラットフォームリーグが統合されて、新たなヒューマノイドサッカーリーグ(HSL)が構築され[6]、小型、中型、大型のクラスに分かれて、それぞれのサイズに応じたフィールドで競技会が開催されました。クラス分けは以下です[7]。
- 小型:高さ < 110 cm, 重さ < 15 kg
- 中型:高さ < 125 cm; 重さ < 25 kg
- 大型:高さ < 190 cm; 重さ < 80 kg
ロボカップ@ホームリーグも、従来、トヨタのHSRをスタンダードプラットフォームとするスタンダードプラットフォームリーグとそれ以外のプラットフォームを用いるオープニンプラットフォームでしたが、トヨタがリーグスポンサーを降りたため、すべてオープンプラットフォームのリーグとなり、ヒューマノイドも入ってきました。
従来の車輪による小型リーグ(SSL)、中型リーグ(MSL)は、昨年の大会でのヒューマノイドの台頭により、来年の2027年ドイツニュルンベルクで開催されるRoboCup2027 [8]までの開催となり、国際大会のオフィシャルリーグではなくなります。ジャーマンオープンなどの地域の大会では継続されるようですが、最終ゴールにむけたリーグの引退になります。
産業応用であったロボカップ@ワークとFESTOリーグは、Smart Manufacturing League(SML)に統合されました。また、ロボカップのスポンサーであるMathWorks社主催のPathway - Autonomous Robot Manipulation Challenge (ARM)リーグも新設されました。
従来の2次元及び3次元のシミュレーションリーグ(Sim2D,Sim3D)は、来年度からヒューマノイドの3次元シミュレーションをメインとする新たなリーグに模様替えになる予定です。ロボカップレスキューリーグでも、シミュレーションリーグがなくなり、ヒューマノイドが導入される予定です。このように、昨年の大会において、今後、ヒューマノイドを各リーグ、可能な限り導入していく方向が決められました。表1に、今回のリーグ再構成のまとめを示しました。
各国と地域がどのリーグに主眼をおいているかを見るために、各国と地域ごとの参加メンバー数について、メジャーリーグとジュニアリーグに分けてグラフ化したものがグラフ3と4です。詳細なリーグに分けると細切れになるので、下記のようにカテゴライズしました。
| Original | Category |
| Humanoid Large/Middle/Small | Humanoid |
| SSL A/B, MSL, Sim2D, Sim3D | Non-Humanoid Soccer |
| @Home | @Home |
| Rescue Robot | Rescue |
| ARM, Industrial | Other |
ジュニアも細分化せずに、Soccer, Rescue, Onstageとしました。これらを見ると、中国はメジャーでは明らかにヒューマノイドに偏っており、ジュニアではOnStageのみの少数です。これに対し、ドイツは満遍なく多くのリーグに参加しています。韓国は開催国なので、ジュニアが最多で、メジャーでは若干ヒューマノイドに偏りつつも、多数のリーグに参加している感じです。日本は、少数のヒューマノイド(一チームが参加登録しているが、試合にはでていない模様)を除けば、多くのリーグに参加しているのが窺えます。
最後にもう一つ、統計データを示します。それは、リーグカテゴリーごとの平均のチームメンバー数です。グラフ5に示します。SSL-A(上級コース)が最も多く、12.5人で、次いで、MSL、@ホーム、ヒューマノイドと実際のロボットを扱って多数のロボット扱うので、人数が必要なのに対し、シミュレーションリーグは3〜4人と少数です。メジャーとジュニアを分ける意図はなかったのですが、結果的に、ジュニアが5人程度を中心としていることがわかりました。ジュニアチームの規定にあるのかもしれません。
4. 大会の様子
7月1日のジュニアリーグの開会式に次いで、7月2日の4時からメジャーリーグの開会式が2階のホールで開催されました。オープニングを飾ったのは、ヒューマノイドの踊りではなく、韓国伝統の舞踏で、電飾によるパフォーマンスが際立ちました[ビデオ1]。仁川市長、現在のロボカップのプレジデントである米国フロリダ州マイアミ大学のUbbo Visser教授、唯一、今回、韓国のロボット研究者として知り合いの、KAISTのJun-ho Oh教授(現在、サムソン、韓国AI・ロボット産業協会長、CTO Rainbow Robotics)らが挨拶し、開会宣言を行いました[写真13]。
すべてのリーグの様子を網羅するのは、物理的に困難なので、筆者が撮影したものをピックアップし、残りはWEBページなどを参照してください。来年で終了引退する中型リーグは、もっとも広いフィールドサイズでルールブック[9]によれば、国際大会では長さが100〜110m、幅が64〜75mと定められています。ビデオ2はその一シーンで迫力あるシュートです。なお、このフィールドは、あとで紹介する11:11のヒューマノイドの試合のフィールドでもあります。
ジュニアリーグは、2階のグランドボールルームと呼ばれている約3000平米の会議室を使って行われました[写真14]。廊下では多くのポスターが立ち並び、随時、議論が交わされていたようです[写真15]。サッカーのフィールドも設定され、機敏な動きを見せていました[ビデオ3]。
レスキューリーグは23チームの参加で、今年からリアルロボットのみとなりました[10]。また、@ホームは今年からオープンプラットフォームのみとなり、ヒューマノイドを導入したチームもありました[11]。他のリーグも含めて、ここで紹介できなかったリーグは、ウェブページなどを参照ください。
さて、人気のヒューマノイドサッカーリーグの移りましょう。小型の決勝戦は中国武漢大学Invicとドイツハンブルグ大学Hamburg Bit-Bots[12]の対戦でした。試合自身は6:3でInvicがBooster K1の機体を使って勝ったのですが、Hamburg Bit-Botsは、小型の機体ながら機敏な動きを見せてくれました。この小型の機体は中国のベンチャーHigh Torque社のMini Pi+で、ビデオ4はロングシュートのシーンを撮りました。印象的なのは、Hamburg Bit-Botsのような世界トップクラスのソフトウェアチームが、自前ハードウェア開発よりも市販プラットフォームを選択したという点です。これは、RoboCup Humanoid Leagueでも「ハードウェアを開発する時代」から、「市販プラットフォーム上で知能・戦略・協調を競う時代」への転換点を示していると思われます。
ヒューマノイドサッカー中型では、ブレーメン大学およびドイツのAI研究センター(DFKI)[13]のB-Humanと同じくドイツライプツィヒ応用科学大学HTWK Robots[14]の対戦でした。両チームともロボカップヒューマノイド名門大学で、何度も優勝しているチームですが、スコアは6:0で、圧倒的な強さを見せたB-Humanでした。ビデオ5は、試合の模様で赤のユニフォームのB-Humanチームのプレーヤーが力強く相手エリアに入り込み、シュートを決めたシーンです。HTWK Robotsチームは大型にも参戦しており、大所帯のチームですね。大型の優勝決定戦は中型と一部被ってしまい、観戦できませんでしたが、ここでも中国勢が1,2,3フィニュッシュで優勝、準優勝、3位を獲得しています。小型が中国とドイツ、中型はドイツ同士、そして大型は中国同士の優勝戦で、ドイツと中国の戦いぶりが目立ったヒューマノイドサッカーリーグでした。
恒例の中型チーム(MSL)と人間チーム(これはロボカップ国際委員会の理事メンバーからなっており、怪我しても文句言わないようにとの配慮からです)の対戦もありました。毎年、レベルが上がってきてますが、ロボットチームの勝利にはまだ少し時間がかかりそうです。加えて、今年はヒューマノイドロボットチームと人間チームの対戦があり、同様にロボカップ国際委員会の理事メンバーが参加しました。ロボットチームにとってなかなか厳しい試合でした(ビデオ5)。後半では、米国の理事でテキサス大学のPeter Stone教授がロボットチームに加わり、ロボットをアシストして、シュートを促しましたが、なかなか決まりませんでした。この人間とロボットの混成チームによる対戦は、来年のドイツ大会でも企画されています。
今回の最大の呼び物はヒューマノイドサッカー中型優勝戦チームのB-HumanとHTWK Robotsによる11:11の対戦です[15]。中型決勝戦と同じく、B-Humanが4:0で勝ちました。これは、RoboCupが1997年から掲げる「2050年にヒューマノイドロボットが人間のサッカー世界王者に勝利する」という長期目標に向けた重要なマイルストーンであり、新世代の量産型ヒューマノイドプラットフォームとAI技術の進展を象徴する出来事となりました。ビデオ6に試合の1シーンを示しますが、先に挙げた[15]にも3分のビデオがありますので、お楽しみください。
5. まとめ
今年のRoboCup2026は、参加チーム数こそ例年並みでしたが、その内容はこれまでの大会とは大きく異なっていました。最大の変化は、ヒューマノイドを中心としたリーグ再編が本格化し、RoboCup全体が「ヒューマノイド中心」の新たな時代へ移行し始めたことです。ヒューマノイドサッカーリーグの再構築に加え、@ホームやレスキューでもヒューマノイド導入が進められ、シミュレーションリーグもヒューマノイドを軸とした新しい構成へ移行する予定です。
また、本稿ではメジャーリーグとジュニアリーグをそれぞれ機能的なカテゴリへ整理して参加状況を分析しました。その結果、各国・地域の研究分野や教育分野への重点の置き方が従来よりも明確となり、中国はヒューマノイドへの集中投資、ドイツは幅広いリーグへのバランスのよい参加、日本は多様なリーグへの参加など、それぞれの特徴を俯瞰的に捉えることができました。
そして、今年の大会を通じて最も強く感じたのは、ロボカップが「ロボットを作る競技」から「ロボットを使って知能を競う競技」へ転換しつつあるということです。中国メーカーによる量産型ヒューマノイドプラットフォームの登場により、世界トップレベルのチームでさえ自前のハードウェア開発ではなく市販プラットフォームを採用する例が増えてきました。これはハードウェア開発の価値が失われたということではなく、ロボット研究の競争軸が、ハードウェアそのものから、AI、知能、協調、戦略、さらには人間との相互作用へと移り始めたことを示しています。
さらに、11対11のヒューマノイドサッカーが初めて実現されたことは、1997年の創設以来掲げてきた「2050年にヒューマノイドロボットが人間のサッカー世界チャンピオンに勝利する」という長期目標に向けた重要なマイルストーンとなりました。ロボカップは今なお世界最大級のロボット研究・教育コミュニティであり続けていますが、その役割は競技会にとどまらず、次世代ロボット技術の方向性を世界に示す実験場として、ますます重要になっていくものと思われます。来年、ドイツ・ニュルンベルクで開催されるRoboCup2027では、この大きな流れがさらに加速することを期待したいと思います。写真の最後は、会場前の未来志向のモニュメント前で撮影された全員集合写真です[写真16]。
追伸:最終日7月6日に開催されたロボカップシンポジウムについては,次回報告します.
[1] https://2025.robocup.org/#
[2] https://robogaku.jp/news/2025/pblog039.html
[4] https://ja.wikipedia.org/wiki/仁川広域市
[5] https://songdoconvensia.visitincheon.or.kr/page/exhibit-hall-information.do
[7] https://hsl.robocup.org/call-for-participation/
[9] https://msl.robocup.org/wp-content/uploads/2024/12/Rulebook_MSL2025_v26.0.pdf
[11] https://johaq.github.io/robocup-home-redesign/competition?id=rc2026
[13] https://b-human.de/index.html
[14] https://blog.htwk-robots.de
[15] https://robocup.org/news/192

















浅田稔
元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授









