日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1995Manipulation〈マニピュレーション〉多指ハンドによるパワーグラスプの力学的特性
小俣 透 | 東京工業大学 |
永田 和之 | 電子技術総合研究所 |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
1.研究の動機
指先だけでなくハンド全体で物体を把持すれば,より頑健な把持が期待できる.このような把持はパワーグラスプあるいは包み込み把持と呼ばれている.パワーグラスプでは,関節トルクが一定でもある範囲の外乱に対抗できるという優れた性質がある反面,把持力が不静定であり解析が難しくなる.ここで不静定とは,つりあい条件だけからは一意に決定できないという意味である.
不静定であるためにそれ以上に解析されていないと直感したことが本研究の動機である.多点で接触しているため各接触点の滑り方向の組み合わせが制限されているのではないか,不静定解は把持力として本当に存在するのか,等の疑問を感じた.
2.結果
滑り方向を解析し,つぎの結果を得た.
- 不静定成分の接線方向には各接触点は滑らない(図1参照).また特殊なケースを除き,滑り方向の制約数=不静定成分の次元,が成立する.すなわち,解が不静定であることと滑り方向に制約があることとは等価である.
- 滑らない方向には摩擦力は発生しないとすると,不静定解も制限され把持力は有界である.
- 垂直抗力のみで構成される解が存在するときは,それが一意に定まる解である.指先把持と異なり,パワーグラスプでは少ない指の数でも多くの場合Form-closureである.したがって,任意の外乱に対して,垂直抗力のみで構成される解が存在するように関節トルクを与えることが可能であり,それは一意である(図2参照).
3.その後の展開
多指ハンドのみならず,図3に示すような脚ロボットなどにパワーグラスプの応用は考えられる.パワーグラスプのように多点で物体や環境に接触することにより,ロボットの機能を大幅に向上できると考えられる.その後つぎのような一般化した結果が得られた.
- 滑り方向の制限の一般化[1]:一般に多点接触するロボットには滑り方向の制限が存在する.とくに自由度が増加する特異姿勢との関連を明らかにし,本体側に自由度を生じるとその分,脚先側の自由度を失うという相反の関係があることを本論文の解析を拡張して導いた(図3(1)参照).
- 不静定解の範囲を求める方法の一般化[2]:不静定成分の次元が2以上でも計算可能な一般的なアルゴリズムを開発した.
- 関節トルク計算アルゴリズム[3]:与えられた範囲の外乱に対抗できる一定関節トルクを求めるアルゴリズムを提案した.
第11回(1997年)日本ロボット学会論文賞受賞