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RSJ2019学生講演レポート[2C1(OS12) :ロボットと生きる・ロボット學再考(1/2)]


執筆日 2019年9月12日

執筆者 東風上奏絵

 

 第37回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2019)が,2019年9月3日から7日まで,早稲田大学で開催されました.このレポートでは,5日に行われたセッションの1つである「ロボットと生きる・ロボット學再考(1/2)」の様子を報告します.このセッションでは,人と関わるロボットに関する人間心理,技術,法についての発表と議論が行われました.

 

 まずは,各発表の概要を紹介します.

 上出先生(名古屋大学)の「モノと人の間ではたらく循環と調和」では,モノを大事にすることでモノと自己が一体化する過程について,心理学の視点からの検討が発表されました.

 竹中氏((株)本田技研)の「人と関わるホンダのロボット」は,ホンダのロボットの制御理念と,人と協調するロボットの応用例についての発表でした.

 小林先生(大阪弁護士会)の「サービスロボット導入と社会的合意形成について」は,自動運転車,ドローン,ロボット兵器を例に,ロボットを実用化する上で現在課題となっている法制度に関する発表でした.

 葭田先生(東京工業大学)の「ヒトと自律機械がハイブリッドな状況で発生した事件や事故の主体の帰属と責任」では,人と自律機械が協調している状況で,その行為や意思決定の主体がどこにあるかを客観的に決めることの難しさについて指摘がありました.

 松尾先生(名古屋大学/日本法哲学会)の「人工システムと法」では,人工システムに人間と同じ権利を与えるべきか否かに関して論じられました.

 最後に,全ての発表に対する全体討論が行われました.

 

 これらの中から,「人と関わるホンダのロボット」と,全体討論の中の1つのテーマ「モノを作る作り手の心構えをどう醸成するか?」について詳しくレポートします.

 

「人と関わるホンダのロボット」

 ホンダのロボットの制御理念と,人と協調するロボットの応用例についての発表です.まず,ホンダのロボットの制御は二元性一原論に基づいています.これは,二つの相反するものが対立するという二元論の考え方とは異なり,補い合って一つのものを構成するという考え方です.

 

 具体的には,ホンダのロボットは大局安定化制御(床反力制御,モデルZMP制御,シナリオ修正制御)に基づき,歩行を制御します.

 床反力制御は,足裏で踏ん張るためのものですが,ホンダのロボットでは,両足がサーフボードの上に乗っているように,一体のものとして扱う工夫がされています.

写真:両足底を一体とみなした床反力制御.ロボットが乗っている台が傾いても,ロボットは倒れません

 

 モデルZMP制御は,理想と実際のずれを無くそうとするのではなく,理想の歩行イメージに仮想の外力を加え,あえてずれを作ることで歩行させる制御です.シナリオ修正制御は,目標行動を破綻させないように歩幅を調整し目標運動シナリオを修正する制御です.これらを用いて歩行しているロボットが,人に進路を邪魔されて,まずは踏ん張り,こらえきれなくなって後ろ向きに足を出して身体を支える動画が紹介されました.

写真:大局的安定化制御による柔軟な動作の実例.歩行しているロボットが人に押されている様子です.踏ん張った後に,こらえきれず,足を一歩後ろに出して転ばないようにしています.

 

写真:二元性一原論から観た大局的安定化制御.転倒と復元という対立概念が補い合うことにより,ロボットの復元動作,ロボットの転倒動作が可能になります.それぞれ,「おっとっと」という動作と,「柔道の受け身」のような動作だと言い換えることができます.

 

 最後に,ライディングアシストしてくれるバイクなどの具体例と共に,ホンダの技術を用いて人と協調するロボットの応用例をご紹介頂きました.人と関わるロボットが人型であることの利点は,人が活動する環境を活用できるだけでなく,人から見てロボットの行動が予測できることにあるという指摘が,報告者の心に残りました.心理学や法学の視点から,人に受け入れられるロボットを考える上でも,人がロボットの行動を予測できることを目指した技術的なアプローチは重要だと感じました.

 

全体討論「モノを作る作り手の心構えをどう醸成するか?」

 

 実際に売れるモノを作る上では,自分のためだけに物作りをするのではなく,他人のために物作りすることが必要です.しかし,作ったモノへの愛着が湧きすぎて,作り手が他人のことを考えられなくなることがしばしば起こります.このような状況下で,作り手の物作りへの態度をどのように養うか?という問いがなされました.

 

 議論では,例えば以下のような意見がありました.そもそも,作り手自身が作るモノに愛着を持つことは,物作りの出発点としては良いのではないか,という意見が多くありました.

  • 消費者感覚を持ったエンジニアを育てれば良いのではないか,すなわち,自分が愛着を持っているモノが社会でも愛着を持たれればよいのではないか.
  • ホンダのアイデアコンテストで,売れるモノを作って社長に怒られたという事例がある.自分が作って楽しいことも重要ではないか.
  • 単に面白いアイデアの先に役に立つものがあるかもしれず,他人に喜んでもらえるものからスタートするのは難しいのではないか.
  • 最初は自分ありきだが,広く視点を持たないといけないし,他人の意見にも徐々に目を向けていく必要があるだろう.

 

 報告者も研究で自分の好きなロボットシステムをつくっており,議論の内容は他人事として感じられませんでした.自分がやりたいことをやらせてもらう自由があることが,研究で何かを作るモチベーションを持続させることに同意しつつも,ではどうすればモノ作りの中に他人の視点も含められるだろうかと考えました.

 個人的には,自分のモノ作りに関して実現したいコンセプトや製作物を,他の人にまず理解やリスペクトしてもらう場があるのが大切ではないかと考えます.

 自分のモノ作りに対する自己肯定感を維持することができれば,そこから自然と他者の考え方に関心を持つようになると思いました.

 あるモノが社会に受け入れられる上では,誰の手によって作られたか,誰がどのような動機で作ったか,というような作り手の存在が見えることが大切なのではないか,と感じました.さらに,モノの作り手と使い手のやり取りが,例え明示的なやり取りでないとしても何かしらあることが大切なのではないか,と感じました.

 心理学,法学,ロボティクスなど様々な分野の専門家が参加するセッションだったからこそ広い視点でモノづくりへの態度を見直す議論が生まれたことについて,多分野で協働することへの新鮮さと面白さを感じました.

 

「ロボットと生きる・ロボット學再考(1/2)」の報告レポートは以上です.この他にも,「ロボットと生きる・ロボット學再考(2/2)」,「インテリジェントホームロボティクス(2/4)」のセッションについても報告していますので,そちらも是非ご覧ください.

 

 

2C1_ OS12_ロボットと生きる・ロボット學再考(1/2)

2C1-01   モノと人の間ではたらく循環と調和

○上出 寛子(名大),新井 健生(電通大/BIT)

2C1-02   【基調講演】人と関わるホンダのロボット

○竹中 透((株)本田技研)

2C1-03   サービスロボット導入と社会的合意形成について

○小林 正啓(大阪弁護士会)

2C1-04   ヒトと自律機械がハイブリッドな状況で発生した事件や事故の主体の帰属と責任

○葭田 貴子(東京工業大学)

2C1-05   人工システムと法

○松尾 陽(名古屋大学/日本法哲学会)