SEARCH
MENU

みのつぶ短信第15回「最新技術との共生が生み出す新たな倫理」


本エントリーは会長在任中に投稿された記事です。

 ICRA2020のWSの前回の続きです.メインの招待講演者はオランダトゥエンテ大学の技術哲学者のピーター=ポール・フェルベーク (Peter-Paul Verbeek)教授です.著書「技術の道徳化: 事物の道徳性を理解し 設計する」(鈴木 俊洋(訳),法政大学出版局, 2015.)で,彼は,「技術は, 我々の行為や世界経験を形成し,そうすることによって,我々の生活の仕方に能動的に関わっている」と主張し,新たな倫理や価値の創出の必要性を訴えています.

 

 講演タイトルは"On human agents and artificial agents: robotics, artificial intelligence, and the human condition"で最初の4枚のスライドを写真1に示します.ドイツのIndustrie4.0と日本Society5.0を引き合いに,最新技術が我々社会に浸透している現状の説明から始まりました.BMIに代表される脳との融合,能力拡張,相互作用,そして共同など機能的な側面が強調されながら,既に認知や情動などのレベルでの相互作用が始まっており,AIによる審判も話題になってきていると言います.その様な現状で,まず最初に人間とロボットの境界を定めることはどういうことかの説明がなされました.チューリングテストでは,既に十分,区別がつかないが,不気味の谷はまだまだ直感的な差異の現れなのか?人工システムは人間によって完全に制御可能か(Human on the loop)?人間がシステムの中に入って制御するのか(Human in the loop)?それとも人間は蚊帳の外か(Human out of the loop)?人間は人工システムによって阻害されるのか?これらの課題は,境界をつけようと思うことから生じると訴えます.

 

 最先端技術によるロボットの高機能化が及ぼす擬人化課題をRobotizationと彼は呼びましたが,それは,人格,エージェンシー,人権,責任などなど,あらゆる問題を引き起こすと警告します.これは,ロボットを他者として捉えることに起因するので,彼は,ロボットの他者性を超えよと主張します.出くわすロボット達は,相互作用,共同,再身体化(re-embodiment)など多様な形態を持つことと,現象学的には,人間とロボットの関係の意図的構造の解析がポイントであると主張します.後者に関しては,少し説明が難しいのですが,大体以下のようです.浅田自身もよく引用するモーリス・メルロー=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty)の『知覚の現象学』を引き合いに,見る,見られる,触る,触られるなど主観と客観が入り混り,身体を介して心的な互酬性の関係が人間とロボットの間の基本的な関係であることをベースとして,ロボット自身が志向性を持つのではなく,ロボット,人間,環境の三者関係を通じて醸し出される志向性が重要であり,彼は,これをRobot-medeiated Intentionarityと呼びます.これを,他者性から仲介性へのシフトとして,仲介された志向性,解釈の枠組み,道徳の枠組みなどからなると説明します.この志向性はロボット,人間,環境の三者の解釈学的な構造を構成し,連珠形(写真2の左上)となると言います.再身体化(re-embodiment)の例として,写真2の右上にある,遠隔の医者がアバターロボットを介して患者を診る状況をだします.医者の身体がアバターロボット上に再身体化され,人間,ロボット,環境の三者の相互作用全体から志向性が浮き上がると言い,この志向性のダイナミクスの中には新たな倫理観も含まれると説明します.

 

 写真2の左下にはトゥエンテ大学のデザインラボで試行されている倫理創出の枠組みで,これらの新たな倫理は「べき」の倫理ではなく,「どうなりたいか?」という志向性を示し,彼は全世界で共有しようという提案しています.このことは,新たな倫理観の創出だけでなく,それを全世界で共有する価値観の創出であり,非常に重要なポイントだと浅田は感じています.

 

日本ロボット学会
会長 浅田 稔

 

 

写真1

 

 

写真2