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学生編集委員会企画:第38回日本ロボット学会学術講演会レポート(オーガナイズドセッション:ロボットの法と倫理:マルチスピーシーズ社会における法と設計)


執筆日 2020年11月3日(火)
東京大学大学院 工学系研究科 修士課程1年 茶田智来


 2020年10月9日(金)から11日(日)にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第38回学術講演会のセッションレポートをお届けします.


 今回レポートするのは,1日目に開催されたオーガナイズドセッション「ロボットの法と倫理:マルチスピーシーズ社会における法と設計」です.
 このセッションは,同志社大学の勝野宏史先生による基調講演「多元化する社会における人とロボットの関係性―マルチスピーシーズの視点から―」で始まりました.AIによって動く自律型の機械を人間の新しい「伴侶種」として捉えたときに生じる問いを投げかけられました.
 これに引き続いて3件の発表が行われました.
 1件目の発表は,京都大学の稲谷龍彦先生による「ロボットの法と倫理の現在」です.ロボットの法的・倫理的地位について,具体的な事例を挙げながら説明されていました.
 2件目の発表は,大阪大学の河合祐司先生,浅田稔先生による「ロボットへの主観的な責任帰属とエージェンシー」です.人がロボットなどの人工物に対してどのような印象を抱いているのかを実験によって調べ,それをもとに「人工物の設計可能性」について議論されていました.
 最後の発表は,同じく大阪大学の浅田稔先生による「A report on the ICRA 2020 Workshop: How will Autonomous Robots and Systems Influence Society?」です.6月上旬の国際学会ICRA 2020で行われた,自律ロボットやシステムが社会に与える影響について考えるワークショップの報告をされていました.



「ロボットへの主観的な責任帰属とエージェンシー」の実験の様子.(予稿原稿[3]より転載)



ICRA2020 Workshopのポスター.(予稿原稿[4]より転載)


 ここでは,基調講演についてもう少し詳しく紹介します.みなさん,「マルチスピーシーズ人類学」という学問をご存じでしょうか.恥ずかしながら,私は今回のセッションに参加するまで聞いたことすらありませんでした.マルチスピーシーズ人類学とは,多種多様な生物や技術,経済といった幅広い対象との相互関係の中で人間を捉える学問のことだそうです. もう少し平たく言えば,人間も,(ほかの生物やものも)それ単独では存在できないのだから,関連するものすべてを考慮して人間というものを考えよう,ということでしょうか.
 この「マルチスピーシーズ人類学」を語るうえで欠かせない概念として,「伴侶種」というものがあります.ここでまた聞き慣れない言葉が登場しました.「伴侶種」とは,「ともに生きる『重要な他者』であると共に,種を超えた複数の個体が区別不可能なかたちで絡み合い」生成される動的共生体です.飼い猫や飼い犬とかのこと?と思われるかもしれませんが,そうではありません.単に一緒に生活していれば伴侶種,というということではなく,互いに共進し合うような関係が構築されている動物を差す言葉なのだそうです.例えば,ただの飼い犬は伴侶種とは言い難いですが,狩猟の相棒として人間と共同生活してきた犬は「伴侶種」とみなせるといいます.人間は,犬との狩猟によって生活し,犬は人間の協働・共生を通して狼から進化してきました.このように,種の異なる「他者」が互いにとって必要不可欠な存在であるとき,それを伴侶種といえるのだそうです.


 従来,その「伴侶種」になりうるものは,動物しかありませんでした.しかし,AIが急速な発展を遂げている近年,自律型機械も伴侶種と捉えられるようになってきています.そうなると,人々は自律型機械に対してどんな感情を抱き,それを表現するのか,どうやって親近感を抱き,信頼するようになるのか,人間は自律型機械という新しい「重要な他者」とどう折り合いをつけ,新しいアイデンティを獲得するのか….こういった様々な問いが生じると勝野先生は言います.これらの問いについて考えるにあたり,伴侶種の新しいかたちである「伴侶種2.0」を提唱されています.自律型機械というこれまでにない対象を取り扱うための新しい「伴侶種」の概念です.
 やや大げさかもしれませんが,AIの発展や自律型機械の生活への浸透は人間の在り方を根元に近い部分から変えてしまうのかもしれません.工学を学ぶものとして,こういった視点も必要なのだなと強く思いました.


 テクニカルな話題が中心の日本ロボット学会学術講演会のセッションの中である種の異彩を放っていたこのオーガナイズドセッション.興味本位で聴講しましたが,ロボットの法と倫理って言われてもピンと来ないぞ?マルチスピーシーズなんて聞いたことすらないなあ…,という私でも楽しむことができました.発表者の方々の活き活きとしたプレゼンテーションから,発表後に交わされた白熱した議論に至るまで,とても印象に残るセッションでした.今回登壇された方々のお話を対面で聴き,研究にかけるその熱い思いをより強く感じてみたいと思いました.
 以上,「ロボットの法と倫理:マルチスピーシーズ社会における法と設計」のセッションレポートでした.私はセッション「アクチュエータ」のセッションレポートも担当しています.そちらもぜひお読みください.


【講演プログラム】
1E2_OS21:ロボットの法と倫理:マルチスピーシーズ社会における法と設計
[1] 1E2-01 【基調講演】多元化する社会における人とロボットのとの関係性―マルチスピーシーズ人類学の視点から―
〇勝野宏史(同志社大学)
[2] 1E2-02 ロボットの法と倫理の現在
〇稲谷龍彦(京都大学)
[3] 1E2-03 ロボットの主観的な責任帰属とエージェンシー
〇河合祐司(大阪大学),浅田稔(大阪大学)
[4] 1E2-04 A report on the ICRA 2020 Workshop: How will Autonomous Robots and Systems Influence Society?
〇Minoru Asada(大阪大学)