2021年9月8日から9月11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.
今回,私が担当したのは,9月10日に行われたセッションの一つである「屋外作業ロボット(1/3)」です.労働力不足などの諸問題を背景に,屋外作業を人の代わりに行ってくれるロボットの技術や課題などが紹介されました.まずは,プログラムの概要について述べていきたいと思います.
1件めは,労働安全衛生総合研究所による「ドローン接触性能試験の検討[1]」です.昨今のドローン活用の需要から,安全性向上のために標準装備が進むプロペラガードの検証を行うという研究でした.はじめに,ドローン事故の実例などを紹介されたのち,原因として一番多かった接触事故を防ぐためのプロペラガードを付けたドローンの接触を実験により検討していました.具体的には,プロペラガードをつけた場合と,つけなかった場合でメッシュシート(建設現場の飛来落下に対応するもの)に対する接触実験が行われていました.
2件めは,竹中工務店株式会社による「環境設置カメラを用いた建築現場向け資材自動搬送システムの開発[2]」です.建設業の高齢化という背景から,資材搬送の自動化を環境カメラのみをセンサとする搬送システムによって行うという研究でした.実験は小型の模型台車4台を特定位置に自動的に移動させていました。今後は,エレベータとの連携や制御の優先付けアルゴリズムなどを研究していくようです.
3件めは,鶴岡工業高等専門学校による「トマト収穫ロボットの基礎検討[3]」です.農業における労働力不足の背景から,野菜の中では収穫難易度の高いトマトの自動収穫を行うという研究でした.実験では,RGBカメラと画像処理から完熟,成熟,熟していない状態のトマトを検出した上で,3リンクマニピュレータによってトマトをつかみ優しく捻ることで収穫していました.
4件めは,川田テクノロジーズ株式会社,大日本コンサルタント株式会社および産業技術総合研究所による「橋梁点検用ドローンの操縦支援制御システムの開発について[4]」です.橋梁点検において近接目視を行う場合,道路の通行止めや高所における作業ということから,人員と時間において多くのコストがかかるという背景あり,ドローンを活用することで,これらの課題を解決し,橋梁点検を遠隔実施可能にするという技術の研究でした.小さなひび割れも見逃さずに検出する必要があるため,高品質な画像の取得が必須になりますが,レーザ測域センサを用いた操縦支援制御システムにより壁面との間隔を一定に保つことで高品質の画像の取得を行っていました.
5件めは,労働安全衛生総合研究所による「ドローン空撮業務における距離ガードの検討[5]」です.建設業においてドローンによる空撮が生産性に大きく寄与する反面,毎年ドローンによる事故が発生しているという背景があります.また,これらの被害を抑えるために機体側にガードをつける研究も行われていますが,空気抵抗等の影響から十分に普及していないという現状があるようです.そこでこの研究では,機体側ではなく柵などの距離ガードを設置することでリスクを低減できるか検証するというものでした.発表では,3種類のメッシュシートに対して,回転しているプロペラを接触させるという実験が行われていました.JISの規定で1類と呼ばれるメッシュシートではプロペラに接触してもシートが破れることはなく,利用者を誤操作や横風によるプロペラの接触から保護することができるのではないかと検証されていました.
6件めは,慶応義塾大学による「果実収穫用マニピュレータの能動的接触動作のための物理ベース運動計画[6]」です.汎用的な収穫動作を実現するためには,障害物(未成熟の果実)を押しのけることができる能動的な接触動作が必要ですが,押しのけた障害物が元に戻った時に,果実同士が衝突を起こす可能性があるため,果実間の衝突力を低減した能動的接触動作を実現するという研究でした.具体的には,カメラから取得可能なパラメータ(果実の位置,大きさ)から位置エネルギを評価して,大きな衝突を未然に防ぐという手法を取っていました.シミュレーションでは実際に衝突力を考慮した手法と比較しても同等の性能を有していました.
これらの中から特に興味を持った「橋梁点検用ドローンの操縦支援制御システムの開発について[4]」について,詳しくレポートしていきたいと思います.
橋梁点検用ドローンの操縦支援制御システムの開発について[4]
本発表で紹介された研究は,撮影された画像から,橋梁のひび割れを最少0.2mmまで検知するという高精度なものでした.この精度を実現するために,ドローンの操縦支援制御システムは,レーザ測域センサを用いた間隔一定制御,正対制御,および壁面端部一定距離制御の3つの制御から構成されていました.
図1 間隔一定制御[4]
まず,間隔一定制御は図1に示すように,橋梁の壁面から一定の距離を保つ制御となっており,距離が3000mmに達すると,2000mmになるような制御をかけるものになっています.
図2 正対制御[4]
また,正対制御は図2に示すように,壁面に対して常に機体を正対させる制御となっています.レーザ測域センサの位置と距離情報から正面の壁面を推定し,機体が壁面に対して正対するように制御を行います.間隔一定制御と同時に行うことで画像の品質を一定に保つことが可能になります.
図3 壁面端部一定距離制御[4]
次に,壁面端部一定距離制御とは,図3に示すように壁面横の端部から常に機体を一定距離に位置させる制御です。レーザ測域センサから推定した壁面端部からの水平距離が一定になるように制御します。これにより,機体昇降時に横ずれすることなく,同列の連続した画像を取得可能になります。
図4 強風下での間隔一定制御結果[4]
最後に,制御の実例として,強風下の屋外で間隔一定制御を行った実験について述べていきます.図4に示すように平均風速4.8m/sに機体がさらされながらも間隔距離がほぼ2000mmで推移していることが分かります.発表では他にも,レーザ測域センサを超音波センサに変えた場合の検証などの実験が行われていました.
以上,「屋外作業ロボット(1/3)」のセッションレポートでした.ほかにも様々な最先端の技術を用いた研究が発表されていますので,気になった方は是非ご一読ください.
参考文献
[1]岡部,堀,山口:"ドローン接触性能試験の検討",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-01,2021.
[2]戸田,宮口:"環境設置カメラを用いた建築現場向け資材自動搬送システムの開発",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-02,2021.
[3]佐藤,金,遠田,佐藤,木村:"トマト収穫ロボットの基礎検討",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-03,2021.
[4]岡本,林,金平,小林有隅:"橋梁点検用ドローンの操縦支援制御システムの開発について",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-04,2021.
[5]堀,岡部,山口:"ドローン空撮業務における距離ガードの検討",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-04,2021.
[6]仲村,川崎,高橋:"果実収穫用マニピュレータの能動的接触動作のための物理ベース運動計画",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-04,2021.
若林諒(RyoWakabayashi)
2021年青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科卒業.現在同大学大学院博士課程前期課程在学中.(日本ロボット学会学生会員)