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学生編集委員会企画:第40回日本ロボット学会学術講演会レポート (オーガナイズドセッション:学生・若手研究者のキャリアパス開拓と支援)


1. はじめに

 本記事は日本ロボット学会と人工知能学会の共同企画として,2022年9月5日から8日まで開催された日本ロボット学会学術講演会のセッションに参加した様子を報告する.

 近年,学生・若手研究者のキャリアパス・支援は話題になっており,人工知能学会でも学生の企画として取り上げた[1].実際に研究者を志す若者が減少傾向にある中で,学会として将来を支援するための方法と現状の問題について議論することは非常に重要なことだ.若手のキャリアパスと支援については,時代年代を問わずに常に意識し改善する必要がある議題である.ロボットに関わる若手以外にとっても本セッションの内容は大変興味が湧く内容であったように思う.

 本セッションは計6件の発表があったため,各々の発表の焦点について個別に報告する.


2. 本文

 本記事では2022年9月6日の午前に開かれたセッションである『学生・若手研究者のキャリアパス開拓と支援』について報告する.
 はじめに,本セッションではセッションの題目の通り,学生や若手研究者にとって一見の価値がある発表の数々であった.ここでは簡単にすべての発表について報告する.


 一件目は大阪大学,産業技術総合研究所のグループによる『若手の学際的ネットワーキングを狙った研究会の開催』である[2].日本ロボット学会 (RSJ) 若手・学生のためのキャリアパス開拓研究専門委員会(ろぼやん [3])における異分野との交流についての発表であった.ろぼやんでは,ロボティクス分野の若手研究者の交流を目的とした研究会を開催し,若手研究者が中心となり,若手研究者や学生が自身のキャリアについて交流できる機会を提供している.

 発表では,普段繋がることの少ない研究者とのネットワーキングを1) 他学会を主体にロボットの研究をされている方々,2) 全く異なる異分野の方々との議論を目的とした研究会の取り組みを報告した.

 著者は人工知能学会の学生編集委員であり,異分野との交流については各学会でも議題にあがるテーマであるため,研究会として開催されることは重要なことである.著者としても,異分野との交流の機会が広がることは非常に重要であり発展させるべきであると考えており,本記事が異分野との交流の意志を広めることに一役買うことができればいいと考えている.


 二件目は産業技術総合研究所,大阪大学のグループによる『日本学術振興会特別研究員へ応募する学生へ向けたろぼやんの取り組み』である[4].ろぼやんでは,学術振興会特別研究員への応募を目指す学生へ向けた取り組みを発表しており,学振採択を目指す学生や若手研究者に向けて,学振の経験者や指導者からの体験談や講演から学振採択までの経験を共有することを目的にしている.発表では,2020年と2021年の開催の内容を報告するとともに,今後の課題である参加者の集客方法について議論した.

 一方で問題として,情報の平等をどの程度に抑えるべきかを考える必要があることも議論しており,学振採択の経験が豊富な研究室のノウハウが広まりすぎる状況も最良とは言えない.

 若手研究者を支援する取り組みとして重要な活動である一方で,議論されているように情報の共有をどこまで行うかを決めていく必要がある.若手を支援するにしても,その若手自身が向上する形で支援していくことが重要であり,必ずしも情報を与えることが正解ではないと感じた.


 三件目は福岡工業大学からの発表『アウトリーチ活動のための対面/オンラインのハイブリッド型トークイベント「このロボットがすごい」について』である[5].2015 年の日本ロボット学会学術講演会において,一般市民向けの研究発表会「このロボットがすごい」をオープンフォーラムとして初めて企画・開催し,それからの経過を報告した.

 2015年から毎年異なる大学で開催され,オープンフォーラムは中継を行うことで遠方の方にも聴講可能なイベントにしており,SNSを利用した視聴者からの質疑応答に対応するなど,ロボティクス分野のアウトリーチ活動に多大な貢献をしている.

 アウトリーチ活動におけるオンライン開催の成功例の1つとしても,同様の活動を計画している方にはぜひ一読してもらいたい.


 四件目はロボティクス勉強会運営会のグループによる『ロボティクス勉強会の設立と進展』である[6].ロボティクス勉強会のこれまでの活動と参加方法,今後の勉強会の位置付けについて発表した.2020年 5月に設立されたロボティクス勉強会は毎月第3週の金曜日の20 時を原則として,オンライン会議ツールZoomを利用して開催されている.勉強会ではロボティクスに少しでも関連していれば,あらゆるテーマの発表を歓迎しており,終わった後は懇親会で自由な議論や情報交換の場として利用することができる.

 これまでロボティクス勉強会について深くは知らなかったが興味を持たれた方にとって,勉強会の目的や運営状況がよくわかる報告となっている.


 五件目は産業技術総合研究所からの発表『国際会議のオンライン開催を活用した学生・若手支援イベントの実例~IROS2020 研究動画鑑賞会を題材として~』である[7].コロナ禍となり学術講演会や各種関連イベントがオンライン開催,または現地とオンラインのハイブリット形態と方針が変化しつつある中で,国際会議に現地で出席する以外の交流の方法を模索し,開催された企画の工夫や参加者の反応など,これまでの研究活動の幅が広がった新たな試みであった.

 国際会議を鑑賞する機会は実際に会議へ参加するのが基本であるが,参加費や渡航費、論文執筆など,国際会議に出席するためには学生や若手研究者にとって容易ではない.コロナ禍以前ではオンライン開催の会議もほとんど存在せず,国際会議への参加の敷居は高いものであった.それに対し,オンライン開催で国際会議に参加し,ともに鑑賞するイベントを開催することは多くの学生や若手研究者にとって貴重な体験になるだろう.


 六件目は東京大学と福岡工業大学のグループによる『男性研究者の研究と育児の両立支援の在り方』である[8].近年では男女の性別を意識し,社会的にも男女の差について議論されることが増えている.若手・学生のためのキャリアパス開拓研究専門委員会は,昨年,若手男性の直面する課題の一つである出産・育児とキャリアを考える機会として,『出産・育児とキャリアの両立どうする?!検討会』を実施した.本発表では企画の設計意図を説明し,当日の反響の解析を通じて今後の男性研究者支援について検討することを目的としていた.

 性別による職業の偏りやキャリアの選択など,たしかに平等とは言えない状況はいくつか存在するとは感じている.しかし,研究界隈だけではなく,個々人ですら完全な対等は存在することもなく,それぞれが認め合うことが近年問題とされている議題の解決策に思える.これまでの意識もこれからの意識もどちらにも利点と欠点も存在する中で,業界として何を重視するかで選択していくべきなのかもしれない.


3. まとめ

 学生・若手研究者のキャリアパス開拓と支援は分野に関わらず,将来の日本を考える上で常にアップデートを繰り返していかなければならない議題である.本記事で紹介している6件の発表について詳しく知りたい場合は参考文献をご一読いただきたい.本記事をきっかけに年代を問わず多くの方々が分野に関わらず次世代を支援し発展させていく一助となれば幸いである.

 

参考文献

[1] 津村賢宏, 佐久間洋司, 西村優佑, 福島康太郎, 松嶋達也: “学生フォーラム〔第108 回〕学生フォーラムから探る若手研究者のキャリア形成”,人工知能,vol. 36,no. 6,794-797,2021.
[2] 川節拓実,坂東宜昭:“若手の学際的ネットワーキングを狙った研究会の開催”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-01,2022.
[3] “若手・学生のためのキャリアパス開拓研究専門委員会のウェブサイト”,https://www.robo-young.jp/
[4] 小木曽里樹,川節拓実,山本知生:“日本学術振興会特別研究員へ応募する学生へ向けたろぼやんの取り組み”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-02,2022.
[5] 槇田諭:“アウトリーチ活動のための対面/オンラインのハイブリッド型トークイベント「このロボットがすごい」について”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-03,2022.
[6] 大西祐輝,吉本幸太郎,安達波平:“ロボティクス勉強会の設立と進展”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-04,2022.
[7] 山本知生:“国際会議のオンライン開催を活用した学生・若手支援イベントの実例~IROS2020 研究動画鑑賞会を題材として~”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-05,2022.
[8] 内山瑛美子,槇田諭:“男性研究者の研究と育児の両立支援の在り方”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2A1-06,2022.

 

津村賢宏 (Takahiro Tsumura)

1996年神奈川県生まれ,大阪府育ち.総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻.博士課程在学中.国立情報学研究所所属.SOKENDAI 特別研究員.人間と擬人化エージェント間の共感について研究.AI社会哲学者,人工知能学会学生編集委員.