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第42回日本ロボット学会学術講演会レポート(オーガナイズドセッション:ヒューマンロボットインタラクション(HRI)(5/5))


1 はじめに

 2024年9月3日(火)~6日(金)にかけて大阪工業大学梅田キャンパスで開催された第42回日本ロボット学会学術講演会のセッションレポートを行う. 今回は,2日目に開催されたオーガナイズドセッション「ヒューマンロボットインタラクション(HRI)(5/5)」について報告する.


2 発表内容

 本セッションでは,合計7件の発表が行われた.


2.1 アバタに触れられると操作者は不快感を覚えるか

 一件目は明治大学,国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究グループによる「遠隔操作アバタの操作者が受ける被接触感覚に対する視聴覚刺激の影響」[1]である. 遠隔操作アバタの活用が進められる中,ディスプレイに表示されたCGキャラクタやロボットを操作することでサービスを提供するディスプレイエージェント型の遠隔操作アバタも多く登場している. 一方で,人同士の交流においては見知らぬ人からの接触は受容されないことから,こうしたサービス利用者とアバタの接触インタラクションを伴う設計が,操作者にとっても良い設計といえるかは不明である. 本研究では,遠隔地における利用者とアバタのディスプレイを用いたタッチインタラクションが,アバタ操作者へ与える影響について調査を行った. タッチ時の操作者へのフィードバック方法が異なる条件において,アンケートにより操作者の印象を調査した結果,ディスプレイに表示されたアバタが触られた際,操作者に被接触感覚(触られたという感覚)が生じることが明らかとなった. また,アバタへのタッチを可視化して接触を強調することで,操作者の抱く不快感が高まることが示された. 昨今の遠隔操作アバタの開発においては,遠隔地の様子をより正確に操作者へ伝達する試みが多く行われているが,この結果はそのような設計がかえって操作者にとって負担となる可能性を示唆する興味深いものであった. アバタ環境にいる人とアバタとのインタラクションが操作者に与える影響も考慮した遠隔操作システム設計が必要であるといえる.


2.2 CGエージェントは触れられる前に反応すべきか

 二件目はATRの研究グループによる「ディスプレイエージェントの対接触前距離に関する検討」[2]である. 一件目でも取り上げたようなディスプレイエージェントを用いたサービスでは,利用者がエージェントに触れることを前提としたGUIとそうでないものが存在する. 本研究では,サービスの利用者側が受ける印象に着目し,触れることを前提としない場面で利用者がエージェントに触れた場合,触れてからエージェントが反応する場合と触れる前に反応する場合(図1),どちらの方がより自然な印象をもたらすかについて調査を行った. エージェントが反応するタイミング(接触前/接触後)やエージェントのディスプレイからの距離が異なる条件において利用者が感じる印象を調査した結果,エージェントが接触前に反応を示した場合,エージェントの人らしさや好感度などの印象が向上することが示された. 接触前に反応することで,人らしさだけでなく好感度も向上したという結果は非常に興味深く,本研究の内容は社会的に受容されやすいディスプレイエージェントの設計に貢献することが期待される.

 


図1: ディスプレイエージェントが人から触れられる前に反応する様子[2]


2.3 ロボットとのふれあい対話によるメンタルケア

 三件目はATR,奈良先端科学技術大学院大学,大阪大学の研究グループによる「触れ合い対話を伴う思考整理を支援する抱擁ロボットの実装」[3]である. ロボットが人間のメンタルケアを行うことができれば,カウンセラーなどの専門家の労働時間に縛られずいつでもメンタルケアを受けることが可能となるが,一方でロボットと信頼関係を構築したり,対話を継続したりすることが難しい患者も多い. 本研究では,身体のふれあいが可能であるというロボットの特徴を活用することで安心感のある働きかけが可能になると考え,ロボットの人間とのふれあいの適切な頻度,種類,タイミング,持続時間等について調査し,ふれあい対話システムを抱擁ロボットに実装した(図2). アバターのふれあい動作の有無や、動作種類などについては,人間がマネキンを親しい間柄と想定し,抱擁した状態で対話した際のデータから導き出された確率分布によって決定された. 本研究においては,ロボットとの対話による問題解決を目標とするのではなく,ロボットとの対話を通じた利用者自身の思考整理を目標としている点が興味深く感じた. ロボットとの身体のふれあいが利用者に与える影響についてさらなる調査結果に注目したい.

 


図2: 実装した抱擁ロボットとの対話例[3]


2.4 VR活用でマッサージロボットへの安心感向上

 四件目は青山学院大学,豊橋技術科学大学の研究グループによる「フィジカルケアロボットにおけるロボティックVRマッサージの視・触覚刺激提示」[4]である. マッサージロボットは,センシングが可能なことから利用者の状態のフィードバックを得ながら施術できるという利点があるが,プロの施術者のような高度な技術を有さないことや,社会的受容性に欠けることなどの課題もある. 当研究グループは,カメラにより利用者の骨格を認識し,プロの施術技能を用いた自律的なマッサージが可能なロボットを開発した. 本研究では,リアルタイムのロボットの状態を反映した,第三者視点のマッサージを受けている様子のCG映像をVRを用いて利用者に提示することで,操作者の体験の向上を図った(図3). 本手法により,利用者の安心感や気持ちよさがVR視覚提示によって有意に高まる ことが実験的に確認された. さらに,痛みや不快感の軽減効果,ロボットマッサージに対する信頼と施術効果を向上させる可能性が示唆された. 長時間のVRゴーグルの使用は利用者に不快感を与える可能性が懸念されるが,それにもかかわらず安心感と気持ちよさの向上が見られた点が興味深いと感じた.

 


図3: 視・触覚を同期刺激するロボティックVRマッサージ実験の様子[4]


2.5 柔らかいロボットで握手を実現

 五件目は富山県立大学の研究グループによる「外装の柔らかいマスコットロボットのアーム制御及び誘導システムに関する研究」[5]である. ロボットの外装の触り心地はロボットに対する印象に影響を与えることが知られており,外装の柔らかいロボットは人とのふれあいにおいてより良い印象をもたらすことが期待される. 当研究グループは,研究従事者らの大学のマスコットキャラクターをモチーフとした,外装がやわらかい素材でできたロボットの開発を行っている. 本研究では,握手機能の実装に向け,ロボットアームを用いて,人間がハンド部分を握手した際,同程度の力で握手を再現する機能の開発を行った. フォースプレート型触覚センサにソフトカバーを装着し,荷重を変化させた際のセンサ出力値を測定することで,実際に与えられた力とセンサ計測値との対応関係を明らかにし,同程度の力で握手し返すことを可能にした. ロボット側の握手し返す力が自分と同程度である場合とそうでない場合で,どのような印象の違いがあるかについても興味のあるところである.

 

2.6 もしも対話相手の顔や声が自分と同じだったら

 六件目は大阪大学,Northeastern University (China)の研究グループによる「対話相手がユーザー自身の顔と声を持つことが自己開示に及ばす影響の予備的検討」[6]である. 他人に対する自己開示には抵抗を感じる場面も多いが,ロボットへの自己開示は比較的容易であることが知られている. 本研究では,自己開示の対象としてどのような特徴を持つ相手が最も適切であるかを検討することを目的とし,対話相手の顔や声が自分自身と同じだった場合,自己開示が促進されるのではないかという仮説を立て,調査を行った. 実験は,リアルタイムで顔と声を変換するシステムを作成し,ビデオ会議システムを通じて,実験者の顔または声,あるいはその両方を被験者のものまたは第三者のものに変えて対話を行う形で実施された(図4). 実験の結果,条件間で自己開示の程度に有意な差は見られなかったが,自分のものか相手のものかにかかわらず,顔と声に一貫性がある方が自己開示の相手として好まれる傾向が示された. さらに,その傾向は女性において顕著であり,男性は女性ほど相手の顔と声の不一致を意識しないことが示唆された. 顔と声の一貫性が与える影響に性差が表れた結果は,とても興味深く感じた. 本研究の結果は,より効果的な自己開示支援システムの開発に貢献することが期待される.

 


図4: リアルタイムで顔と声を変換する対話システムの概要[6]


2.7 ロボットでも深刻なミスには相応のお辞儀を

 七件目はATR,同志社大学,明治大学の研究グループによる「深刻度に基づくお辞儀動作の分析とロボットへの応用」[7]である. 近年サービスロボットは実社会にも多く取り入れられているが,一方で失敗も多い. 一般的な謝罪方法の一つにお辞儀が挙げられる.最適とされるお辞儀の秒数や角度も存在するが,一方でどのような状況においても同じお辞儀動作を行うことが適切であるとは考え難い. 本研究では,ロボットの失敗の深刻度に応じて適切なお辞儀動作を行うことで,より謝罪が受け入れられやすくのではないかという仮説を立て,検証を行った. 複数の深刻度が異なる失敗事例に対する人間のお辞儀動作のデータを収集したところ,深刻度が上がるほどより深く長いお辞儀になることが明らかとなった. このデータを基にロボットのお辞儀モデルを作成し,失敗の種類によらずランダムなお辞儀動作を行う場合,最適とされるお辞儀動作を常に行う場合,および提案システムについて,ビデオ視聴形式で評価実験を行ったところ,提案システムにおいて最も好意的な印象を受けることが明らかとなった. 失敗した本人が失敗の重大さを理解しているように感じられると印象が良くなるという結果は非常に興味深く感じた.


 会場からは最後に,最終的にはロボットに土下座が求められるようになるのでは,というユニークなコメントも登場した. 近年は運動性能の高いロボットが多く登場しており,将来的にはロボットの土下座に関する研究が行われる可能性もあるかもしれない―という議論をもって,本セッションは締めくくられた.


3 おわりに

 本稿では,OS15:ヒューマンロボットインタラクション(HRI)(5/5)について報告を行った. いずれの発表も興味深く,会場からも3分間という限られた質疑応答の時間の中で,多くの質問・コメントが飛び交った. 5回にわたって開催されたHRIのセッションでは,いずれも会場は常に立ち見の参加者が出るほどほぼ満員の状態であり,改めてHRI分野への関心の高さを感じた.


参考文献

[1] 木本充彦,塩見昌裕:“遠隔操作アバタの操作者が受ける被接触感覚に対する視聴覚刺激の影響”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-01,2024.

[2] 塩見昌裕:“ディスプレイエージェントの対接触前距離に関する検討”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-02,2024.

[3] 秋吉拓斗, 住岡英信, 中西惇也, 加藤博一,塩見昌裕:“触れ合い対話を伴う思考整理を支援する抱擁ロボットの実装”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-03,2024.

[4] 原田直弥, 北崎充晃,田崎良佑:“フィジカルケアロボットにおけるロボティックVRマッサージの視・触覚刺激提示”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-04,2024.

[5] 川瀬裕大, 小柳健一, 増田寛之, 野田堅太郎, 塚越拓哉, 澤井圭, ルマスリ アハメド, 李豊羽:“外装の柔らかいマスコットロボットのアーム制御及び誘導システムに関する研究”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-05,2024.

[6] 名取大雅, Fu Changzeng, 石黒浩, 吉川雄一郎:“対話相手がユーザー自身の顔と声を持つことが自己開示に及ばす影響の予備的検討”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-06,2024.

[7] 塩見昌裕, 平山太一, 木本充彦, 飯尾尊優, 下原勝憲:“深刻度に基づくお辞儀動作の分析とロボットへの応用”,第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集,1H5-07,2024.


新川 馨子 (Kaoruko Shinkawa)

 2023年電気通信大学情報理工学域II類(融合系)卒業.現在電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム専攻博士前期課程在学中.アンドロイドの遠隔操作システムの研究に従事.(日本ロボット学会学生会員)