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学生編集委員会企画「環境に問われ,環境に応えるロボット知能~静岡大学 小林・早川研究室~」


1 はじめに

 本企画は日本ロボット学会学生編集委員が,静岡大学 工学部機械工学科 小林・早川研究室への取材を行ったものである. 小林・早川研究室は,知能ロボットの学習とセンサ情報処理を軸に,ロボットの認識・動作生成・制御に取り組む研究室である.

 今回,私たちは静岡大学浜松キャンパスに拠点を置く小林・早川研究室を訪問し,小林祐一教授および研究室に在籍する学生へのインタビュー,ならびに実験室の見学をさせていただいた. 本稿では,取材を通して得られた研究内容の特徴や研究室の取り組み,研究環境について紹介し,知能ロボット研究の現状とその魅力を伝える.


2 小林教授へのインタビュー

 はじめに,小林教授へのインタビューを行った(図1).

 


図1: インタビュー時の様子 (写真:小林教授)


2.1 小林・早川研究室について

— はじめに,研究室のことについてお伺いします.どのような研究に取り組まれているのでしょうか.

 研究に関しては,主に基礎研究的な領域で行っている研究と,応用を目指している研究があります.基本的には応用の話をした方がイメージが湧きやすいので,応用の説明からします.移動ロボットやアーム型ロボットを対象に,ロボットが使える場面を広げることを目指した研究を行っています.現場ではロボットにとって分かりにくい状況や,人間なら対応できるがロボットには難しい作業が多くあります. その一例として,触覚情報を利用したマニピュレーションの研究があります.半透明の袋内の物体を人間が手探りで扱うような作業をロボットで実現することを考えています.また,掘削時の反力などの情報を用いて土の状態を推定する自律ショベルの研究も行っています.これらは企業との共同研究であり,シミュレーションを用いた土砂状態推定法の開発を担当しています.


— 基礎研究に関してはどのようなことをされていますか.

 基礎研究で考えていることは先程のテーマとつながっており,触覚を使って対象を認識する際に,「どのように触ると分かりやすいのか」という問題を扱っています.対象が未知の場合,ただ表面をなぞるだけでは十分な情報は得られません.認識の仕方は,ロボットの動き方によって大きく変わります.そのため,認識をうまく行うための行動をどのように決めるか,またそれをどのように学習するかといった点を基礎的な研究テーマとしています.


2.2 小林教授の著書【ロボットはもっと賢くなれるか】[1]について

— こちらの書籍はどのような人に読んでほしいですか.

 ロボットに関わっている人で,研究や実装,開発をいろいろやってきたけどなかなかうまくいかない,今のロボットは本当に賢いと言えるのだろうかと内部で引っ掛かりを感じている人はいるのではないかと思いました.そのような人に,賢さとはどういうことなのか,何がネックになっているのか,どんなアプローチをしたらいいのかといったところを入口に興味を持ってほしいと思っています.

 この本の入口としてはエンジニアや研究者,学生さんなどに向けた書き方にはなっているんですが,後半は人間の知能や賢さをどう考えるかといったような少し哲学的な方に向かっていくので,当初の想定よりは対象とする読者層が広くなっているかもしれません.


— 哲学に関する内容が度々登場しますが,小林先生がロボットや知能について深く考えるようになったきっかけはありますか?

 もともと高校生の時から社会科学的なところに興味がありました.いわゆる受験校にいて,勉強自体は楽しくもあったんですが,周りを見ていると,みんな朝から晩まで勉強してテストの点数で評価されて,勉強のできる人は良い大学に行ってお金持ちになり,勉強ができない人はそうなれないかのような感覚を抱きました. そう想像すると,こんな世界ってあまり幸せじゃないなと思ったんですよね. なぜこんな仕組みなのかとか,幸せな社会ってどういうものなんだろう,といったところに最初は興味があったんです.

 大学に入り,教養科目などを通して社会科学的なことを勉強していくうちに,人間の幸せについて考えるには人間についてもう少し理解しなければと思うようになり,哲学や心理学,宗教などについても興味を持ち始めました. 他学部聴講などを活用してそれらについて積極的に勉強していく間に,次第に人間を言葉だけで理解しようとすることに少し限界を感じるようになったんです.言葉の意味には人によって理解にばらつきがあって,言葉だけに頼っていたらそういった壁を乗り越えられないんじゃないかと.

 そこで数学とかエンジニアリングとか,数理モデルをベースにした議論であれば,客観性が担保されるし,誤解を生んだりしにくいと思ったんです. 人間を考えるにも,言葉で考えるだけではなくて,数理モデルなどとリンクさせたらもっといい哲学になるって思ったんですよね. そのあたりが知能ロボットに興味を持ったきっかけにもなっています.


— 書籍の内容は,実際に研究されている内容とどのように結び付いているのでしょうか.

 書籍の内容はモチベーションのようなもので,興味のある部分や方向性に重きを置いて書いた本です. それぞれの研究の中で,ベースとしてこういう思想や方向性でやりたいというのが繋がっているような関係性だと思います.

 具体的には例えば,検証原理という話をこの本の中では紹介しています.何かロボットが認識や判断をするときに,それがロボット自身で確認できるということが大事だと思うんですよね. つまり何か入力が入っていて状態などがこうだと言ってるときに,それを自分で確認できないとただ言いっぱなしになってしまいます. ちゃんとロボット自身が検証できることが重要という考え方を本では紹介してるんですが,それを例えば移動ロボットの例に置き換えたようなものが今取り組んでいる研究の一つです.

 例えば移動ロボットが路面を走るとします.路面に障害物があったら避ける必要がありますが,普通はこういう大きさの物があったら障害物と判定するとか,人を認識して障害物とするとか,そのように回避を実装します.実用的にはこれで良いんですが,先ほど紹介した検証原理からすると,それはロボット自身は確かめられないんですよね. だからある意味では,それは本当に賢いとはいえないと僕は思っています.

 じゃあ確かめられるような賢いロボットって何かと言ったら,例えば路面に凸凹があったら,そこに乗り上げたときにセンサーで振動を感じ取れるとかいったことですよね. それは自分で凸凹があると思ったことを,自分で走って確認できるということになります. つまり単に画像に対してラベルを与えて処理するだけではなく,実際に走ってその時にどうなったかを確認できるようなロボットであれば,この検証原理というものにかなうんじゃないかと思っています. 実際の研究では,例えば移動ロボットのカメラで捉えた地面の画像から,単に障害物があるかなどを検出するのではなく,ここを走るときにどのような衝撃を受けるかを予測するモデルの構築などを行っています. そんな感じで実際の研究の思想にも反映されているイメージです.


2.3 学生との関わり方について

— 学生の指導やコミュニケーションで重視していることはありますか.

 学生に対して特に重視していることは,だんだんと自分で考えられるようになることです.自分で調べ,視野を広げ,最終的には自分で問題設定までできるようになってほしいと思っています.ただ,最初からそれらを求めることは難しいと思います.まず,専門的な知識がないところからスタートするため,はじめのうちは教員側が「こういう問題がある」「こういう道具がある」「次はこれを考えてみよう」といった形である程度のアドバイスをします.しかしそれは徐々に減らしていき,最終的には学生自身が考えて提案してくれる状態が理想です.最初は決められたことを行い,そこから徐々に自分で考える割合を増やしていく.そのプロセスを学生全員に経験してほしいと思っています.学生に求めるスキルや姿勢としては,やはり自ら考えて行動することが重要です.最終的には,細かな指示がなくても研究が進み,時々議論したりコメントしたりするだけでよくなる状態を目指しています.そうしたアプローチの仕方は社会に出てからも必ず役に立つものであり,そのような力を身につけた状態で卒業してほしいと考えています.


3 実験室での見学

 インタビュー後,研究で実際に扱っているロボットを実際に見学させていただいた.

 


図2: SUPPOT(株式会社ソミックトレンスフォーメーションとの共同研究で使用)


 図2に示す四輪台車は,カメラ,LiDAR,GPS/GNSS,IMUセンサなどを搭載している.3.2に例として登場した,不整地面を走行する移動ロボットの研究に用いられており,走行時の揺れをIMUセンサで計測し,衝撃や振動を予測する研究が行われている.

 


図3: 手先に視覚と触覚を搭載したマニピュレータ


 図3に示すロボットアームは,カメラを搭載し,手先には丸い手のような形状の物体と触覚センサを装着している. 2.1で例として登場した,触覚情報を利用したマニピュレーションの研究に用いられており,カメラによる視覚情報に加え,触覚情報を用いて物体を認識する.丸い形状のエンドエフェクタをさまざまな方向に動かしながら,どのような形状に触れているのかを推定する.


4 研究室の学生へのインタビュー

 最後に,小林・早川研究室に所属する学生にインタビューを行った(図4).

 


図4: 学生へのインタビューの様子(写真:小林・早川研究室に所属する学生4名,学生編集委員 佐藤,新川)


— 研究を行う中で,どんなときにやりがいを感じますか?

学生A)やはり結果が出ると嬉しいです.このような結果が得られるはずだという仮説を立てて実際にやってみて,もちろんあまりうまくいかないことも多いですが,うまくいったときはやりがいや楽しさを感じます. 研究室で扱っているテーマとしては基礎的な内容と応用的な内容があり,自分は応用に非常に近い自律ショベルの研究(3.1参照)を行っているので,理解されやすい面もあります.


— 基礎的な研究の方はいかがですか.

学生B)基礎研究寄りの内容をやっているとなかなかイメージが掴みにくく,応用研究に比べてかなり理解されにくい部分があるかなとは思います.ですが,自分の中で理解をし,学会などの場で研究の意義や内容を伝えることができた瞬間はやはりやりがいを感じます.学会で発表すると,研究室で聞かれることとはまた別の観点から質問が来たりもします.自分が想定していなかった質問に対しても,また別の視点があるのだと学ぶことができます.


— 自分の将来やキャリアを考えていく中で,研究で身に付けた知識やスキルはどのように生かされていますか.

学生B)研究では制御系をやっていて,就職してもロボットや車など,ものづくりや制御に関する仕事をやりたいという気持ちがあります.プログラミングの知識や制御理論は将来仕事にも生かせるのではないかと思います.

学生A)技術的なスキル以外にも,困難に直面したときに対処する能力や,他の人と共同作業で必要なコミュニケーションスキルなどのさまざまな場面で必要となる基礎的なスキルも,研究活動を通して培われたように思います.


— 研究室内では普段どのようにコミュニケーションをとっていますか.

学生C)研究室内では担当院生制度という制度があり,大学院生が学部生の面倒を見ることになっていて,先輩と後輩のコミュニケーションがとりやすい環境になっています. 教える側からしても教えることで責任が生まれますし,自分の理解も深まるので,とても良い制度だと感じています.

学生B)先輩から教えてもらったことを次は自分が後輩に伝えていく感じで,引き継ぎがしやすい面もあります.


5 あとがき

 静岡大学小林・早川研究室への取材を通じ,研究内容をはじめ,学生とのコミュニケーションの取り方や研究で使用しているロボットについても知ることができた.また,研究室に所属している学生の皆さんが志を持って生き生きと取り組んでいる様子を拝見でき,刺激を受けた. 研究室の取り組みを知ることができた貴重な機会となった.

 

参考文献

[ 1 ] 小林祐一, ロボットはもっと賢くなれるか哲学・身体性・システム論から学ぶ柔軟なロボット知能の設計. 森北出版, 2020.

 

佐藤希美(Nozomi Sato)

2026年浜松未来総合専門学校AI×コンピュータ科プログラムコース卒業.SLAM技術および確率ロボティクスを中心とした学習・実装に取り組む.(日本ロボット学会学生会員)

 

新川馨子(Kaoruko Shinkawa)

2025年電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム専攻博士前期課程修了.同専攻博士後期課程在学中.アンドロイドの遠隔操作システムの研究に従事.(日本ロボット学会学生会員)